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ヒーローに目覚める日③

「____お、お前――誰だ!?ど、どうして……俺の部屋に……っ……!?」 「まあまあ、それはおいおい説明することにして__なかなか旨そうなトーストじゃないか。一口味見させてもらうよ……ふむ、ふむ……君はピーナッツバターは嫌いなのか。わたしもピーナッツバターは好みじゃない。これからずっと行動していくには最適な相手となりそうだ――」 お洒落さを重視して購入した黒い長椅子(座り心地は最悪だ)に悠々と座りながら、警察官達がドアをバンバンと勢いよく叩いているにも関わらずテーブルの上にアダムが置きっぱなしにしていたストロベリージャムを塗りたくった甘いトーストを一口食べる。 とはいえ、その得体の知れない男は椅子から立ち上がりテーブルまで歩いて呆然とした顔で眺めているだけのアダムからトーストを奪い取った訳ではない。ひょい、と右手を上に一度振り上げただけだ。それだけで、テーブルに置きっぱなしで斜めに転がっていたトーストが独りでに__まるで意思を持つかのように微妙な顔つき(きっと座り心地が悪いせいだ)で座ったままの男の手へと飛んでいったのだ。 もぐ、もぐと口を動かしつつトーストを喉を鳴らしながら飲み込んだ男は__今度は人差し指で空中に何かをなぞるようにして描く。それが文字なのか、はたまた何かの図形なのかまでは紙上に描いている訳ではないので分からない。 その時だった___。 「見つけたぞ……っ__アダム・クロフォード。今すぐ降伏しろ……ニューワールド氏殺害容疑で逮捕する!!」 とうとう、強行突破したせいで警察官二人が無理やり部屋の中へと入ってきた。そして、長椅子に座り込んでトーストをかじっている男の方になど見向きもせず__真っ直ぐ呆然としたままのアダムの方に駆け寄ってくる。そして、その内の一人の警察官(義手をしていない方)が脅しのためにアダムの背中に銃口を突きつけて手錠をはめようとした。 しかし、その次の瞬間___、 ダダダダタッ……!! 「____っ……ぐっ、ああああっ……!!?」 アダムの断末魔でも__、 ましてや椅子に座り込んだまま眉ゆらピクリとも動かさずに此方を見つめている謎の男の断末魔でもない。 警察官の内の一人__アダムに手錠をかけようとした粗暴そうな男の断末魔が響き渡った。混乱している状況の中、よくよく見てみると【アベル】と呼ばれた男の方の警察官が義手がついている左手をもう一人の警察官の男の背中へ向けつつ__アダムには弾が当たらないようにしながら腰にぶら下げている筈の本物の銃ではなく、いつの間にかマシンガン銃のように変形した【左手の義手】の先端から弾を放っているのだ。 辺り一面が血の海と化して、確実に絶命していゆ警察官の男はあっけなく床に倒れ落ちた。 ギシッ…… と、フローリングを床が軋んだ音をたてつつ【アベル】と呼ばれた警察官の男が此方へと近付いて来ようとする。 その顔は、まるで映画に出てくるピエロのよう____。 がく、がくと小鹿のように膝を震わせるアダムは微動だにさえ出来ず、【アベル】という警察官の男の歪んだ笑みに追い詰められていく。 その時___、 大きな揺れがアダムの部屋を襲った__。奇妙なのは、窓の外に植えられている木の葉が全くそよいでいない事だ。外に駐車されている車もちっとも動いていない。それは、すなわちこの揺れがアダムの部屋の中でだけ起こっているという事である。 「____っ……」 (しっかりしろ、逃げるなら今の内だ……っ……) けれど、その大きな揺れのおかげでぶら下がっていたライトが割れて【アベル】という名前の警察官の頭に降り注ぐ。油断していたかは知らないけれどアベルが動揺して動きを止めた。 ハッと我にかえったアダムは__その隙に一目散にこの部屋から逃げようと駆け出したが、それはすぐに何者かによって阻止されてしまう。 唐突に現れた__首のない男によって、アダムはお姫様抱っこ状態で体を囚われてしまい、耳元で小さく何かを囁かれてしまうと、そのまま意識を失ってしまうのだった。

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