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ヒーローに目覚める日②
そのニュースを聞いた瞬間―――アダムは自分の耳が正常かどうか疑ってしまった。アナウンサーがまるでアンドロイドのように淡々とした口調で告げた殺人事件の被害者こと【ニューワールド氏】とは昨夜会っていたばかりか―――人には軽々しく言えないような卑猥な関係を持っていた人物だからだ。
かなりまずい事になった、とアダムは被害者となったニューワールド氏を哀れむよりも先に思ってしまった。『自分の身の保身しか考えられないのか……薄情なやつめ』と世間的にうるさい周囲の人間は口を揃えて好き勝手に言うのだろうが、アダムにとってはそんな事すら吹き飛んでしまうくらいに深刻なのだ。
ニューワールド氏と共に夜を過ごそうとしていたなんて知られたら―――アダムは真っ先に殺人犯として疑われるに違いない。それというのもニューワールド氏は人付き合いが余り好きではなく特定の気を許した数十人の奴らとしか関わっていなかったのだ。
すると、必然的に警察は犬のように鋭い嗅覚と勘を持って彼と肉体関係を持っていたアダムを【痴情のもつれ】という名目を口にしつつ殺人犯の疑惑のある人物として特定するに違いない。
そしたら―――何とか精神を保ってこなしている仕事を失ってしまうばかりか、ジーニアスにも軽蔑されてしまうに違いないと思ったのだ。ただでさえ、ジーニアスの仕事を半ば奪ってしまっているような状況で後ろめたく彼にだけはこれ以上は嫌われたくないと思っている最中にこんな事が発覚したら―――今度こそアダムはギリギリで保っている精神を維持出来ないかもしれない。
(そんな……そんな……まさか―――ニューワールドが殺人事件にあうなんて……っ……あの夜に別荘にいたのは……俺だけだ……メイドも執事も全員いなかった……早く……早く……警察に知られる前に逃げ……っ……)
ドンッ……
ドン……ドンッ……
と、そんな風にアダムがテレビを凝視して立ちすくんでしまっていた時だった。急に入り口の扉を激しくノックする音が聞こえてきた。ビクッと身を震わせて余りの恐怖と不安から小鹿のようにガクガクと足を震わせながらアダムはドアへと向かっていく。
おそるおそるドアスコープを慎重に覗いてみると―――アダムの予想通り警察官が二人立っていて、その内の一人が激しくドアを叩いていた。あんなにもドアを激しく何度も叩いて痛くないのだろうか―――とアダムが恐怖に怯えつつ心の片隅でチラリと考えていたのだが、その警察官の一人の右腕はどうやら義手のようで金属だというのが分かる。
しかし、アダムにとってそんな事はどうでもよく何とかこの場所から逃れなくてはと必死で身を縮こまらせつつ窓がある部屋へと音を立てずに向かおうとした時―――、
「アベル……こうなりゃ強行突破しかない。これ以上ドアを叩いたらお前さんの機械の手が壊れちまうかもしれねえしな……そうなりゃ面倒事に巻き込まれるのは俺様だ……どけ、このドアを蹴破ってやる……」
「……りょ、了解しました……」
警察官達のやり取りがドアの外側から聞こえ、絶対絶命のピンチだとアダムが悟った時―――、
「ほう、キミは―――この場から消え去りたいと思っているな……その願い、叶えてやる」
「……っ…………!?」
どこからか、聞き覚えのない男の渋い声が恐怖でパニックになっているアダムの耳へと届くのだった。
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