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「え?」 「俺とお前の間にどんなことがあったんだ?」 「クロさんは……何度も僕を助けてくれました」 コーヒーフロートをちょっとずつ飲みながら、海は、頬を赤く染めて話をする。 頬杖を突いたクロは無言で相槌をうって続きを促す。 明るかった日差しが茜色を帯び始めた。 夕日に照らされた乗り物は白昼とはまた違った趣を見せ、どこか切ない思い出達に彩られているような。 「もうこんな時間か」 一定の客足を保つ園内をのんびり回っていた二人。 「あれ、乗らないか?」 クロが指差した先を見、海は、小さく頷いた……。 観覧車から見る夕焼けは何だか格別だった。 狭いゴンドラの中、向かい合って、ガラス面に滲む薄れゆく西日を満喫する。 海は少し遠くに見える街並みを興味深そうに見つめていた。 「カイ」と、クロに呼びかけられると、ガラス面に両手を宛がったままそちらに顔を向けた。 クロは長く細い五指を綺麗に揃えて隣にくるよう海を手招いた。 「ゆっくりおいで」 その言葉通り反対側の座席へゆっくり移動した海。 クロのすぐ隣にそっと腰掛ける。 小柄な海の肩に腕を回すと優しく抱き寄せたクロ。 何の抵抗もなく身を委ねてきた記憶のない恋人の髪に頬をくっつけた。 「俺の話をするお前を見ていてわかった」 重なっている場所だけではなく、紡がれる声音にも感じられた、温もり。 「世界で一番俺がお前を大事にした理由」 そっと顎を持ち上げられる。 黒縁眼鏡のレンズ越しに伝わるその温度。 「俺はなによりもお前が好きなんだな、海」 唇にも触れたその温もりに海は目を閉じた。 翌日、学校が終わると、海は真っ先に秘密の抜け穴を通ってマッドネスの秘密地下実験施設に出向いた。 曲がりくねった通路をいつも通りの道順で進むと、お目当てのラボ前で足を止め、ノックする。 すると。 「ああ、おいで、海」 いつも通りの温もりでもって出迎えてくれたクロ。 その手首から魔物の歯形は綺麗すっかり消え失せていた。 海の記憶を忘れ去っていた昨日のクロは、もう、どこにもいない。 昨日の彼とはもう永遠に会えない。 切ない痛みを胸に覚えた海はその場でしばし佇んだ。 「海、どうした?」 通路に突っ立ったまま中へ入ってこようとしない海に首を傾げ、クロは、何の迷いもなく手を差し出してくる。 かけがえのない痛みを大事に胸に仕舞って、海は、愛しいその手をとった。

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