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第1話

 あたり一面が白く、だだっ広い空間。その中央らしき場所にあるちゃぶ台の上に、湯気が立つひとつの湯のみ茶碗がある。  ちゃぶ台の前の床へ、じかに置かれている、ブラウン管テレビを眺めているのは、背格好からして子供のようだ。長袖のワイシャツに、サスペンダーがついた紺色の半ズボン姿。黒いランドセルを背負っていることから、性別は男だと推測できる。整った顔立ちをしており、目の色は澄んだ空のようなブルーで、柔らかそうな短髪の、髪色はプラチナブロンドだ。  少年は胡坐を組んだ片膝をかくかく揺らしながら、噛りつくようにして、熱心にテレビを見ている。 「おお、これこれ」  外見からは想像がつかないしわがれ声だ。彼は半ズボンのポケットから、折りたたみ式の携帯電話のようなものを取り出し、操作した。 「あ、もしもし? わしじゃけど。わし。ええ? だからぁ、わしじゃて。天使ナンバー千三百六十じゃ。そんで、さっきやっとったやつ。狭間ショッピングの。三足セットの激安靴下。ひとつ注文で」  うきうきとした様子で通話を切り、少年がテレビのリモコンらしきもののボタンを押すと、テレビに表示されていた映像がさっと変わった。 「さて、退屈も極まったことじゃし」  テレビを見て、何かを確認するように何度か頷いてから、ランドセルを肩から下ろし、ちゃぶ台の上に置く。続いてランドセルのかぶせを開き、彼は中を覗き込んだ。 「今回はこいつらでいいじゃろ」  にやりと笑い、ランドセルの中に手を突っ込む。 「遊ばないとやってられないからのぉ」  彼が取り出したのは、ふたつの白い球体だ。それをぽぉん、と無造作に床へ放り投げたら、球体が人の形に変化する。  ひとりは、身長が百七十六センチほどある。目鼻立ちがきりっとしており、アッシュブラック色をした髪は、全体にランダムな緩いパーマがかかっている。黒いフードがついたグレーのピーコート。グレー地に黒のジャガード柄が入ったブイネックカットソーを、その下に着ている。はいているのはカーキ色のチノパンで、その容貌と服装から、二十台前半だと思われる。  もうひとりは、身長が百七十四センチほどで、甘い顔立ちをしている。おしゃれな髪形で、ニュアンスパーマがかかっている。色はアッシュベージュだ。整髪料を使っているのか、前髪がきれいに上がっていて、わずかに丸みを帯びた額が丸見えになっている。黒いモッズコートの下に、グレーの杢色をしたブイネックの薄手ニットを着ており、迷彩柄が入った黒いチノパンをはいていて、やはり二十台前半に見える。  ランドセルを背負い直すと、少年は立ちあがり、目鼻立ちがくっきりとしている男に近づいた。 「谷川武典くーん。起きなされ」  小さな手のひらで、男の頬をぺしぺし叩き、続いて彼の隣に横たわっている、甘い顔立ちをした男に顔を向けた。 「北村翔くーん。おぬしも起きなされ」  呼びかけて満足したのか、少年は再びちゃぶ台の前に戻った。湯のみ茶碗を両手で持ちあげ、中身をずずずっと啜る。  先にまぶたを開いたのは、武典と呼ばれた男だ。彼は眠そうにまばたきしたあと、まぶたをぐっと見開き、慌てた素振りで身を起こす。 「え? ええっ? はぁぁぁっ!?」  武典は驚いたように叫んでから、隣でまだ寝息を立てている、翔と呼ばれた男の肩を、がくがくと揺さぶった。 「馬鹿っ、寝てる場合か! 起きろっ!」  翔は小さなあくびをしてから、武典と同じくまぶたを見開く。 「おわっ! えっ!? 何だこれ!?」  がばっと起きあがり、翔は中腰となって辺りを見回した。  起きたふたりに、少年は視線を向けない。「おっ、茶柱」と呟き、湯のみ茶碗の中を覗き込んでいる。

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