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第2話
「誘拐? にしては、この部屋おかしくね? 広すぎじゃね? 壁、なくね?」
翔は眉を寄せながら、まだ辺りを見回している。
「茶柱、じゃあねぇよ。誰だてめぇ」
少年に向かって、武典が尋ねた。
「見てわかるじゃろ。天使様じゃ。エンジェル様」
少年は鼻を鳴らす。
呆けたような顔をして、翔が口を開いた。
「は? 俺ら死んだの?」
「おまっ、こいつが天使だってすんなり信じんなよ、ばーか!」
「え、だってこの空間がさぁ。非現実的だろ?」
「夢に違いない。うん、そうだ」
自分に言い聞かせるように、武典は何度も頷く。
「別に、夢っていうことにしてもいいんじゃが、このままではおぬしら本当に死ぬからの」
少年はテレビを指差した。
「ほら。寒空の下で酔っ払って、ふたりとも寝ている状態じゃからな。ニュースとかでよく聞くじゃろ。そういう人が死んだって」
テレビに映っているのは、公園で寝ているふたりの姿だ。
「あれ? 俺らじゃん?」
翔はテレビを指差した。
「何で寝てんだ? 酒盛りしてたはずだよな?」
武典が首をかしげる。
ため息をつき、少年はリモコンを操作する。テレビ画面にノイズが走り、別の映像が映し出された。
「ほい。おぬしらがこうして眠ったっていう、阿呆な録画がこれ」
眉をひそめながら、ふたりは画面に目を向ける。
テレビに映っているのは、闇夜が広がる、ひと気のない小規模な公園だ。公園を囲うように生えている木々は、真冬の装いをしている。そこにひとつしかないらしき、外灯の傍らにふたりは座っていて、彼らの周りには空いた酒の缶がいくつも転がっていた。
「あー、課題。大学のやつ。そろそろやらんとやばいんだよなぁ。翔は? おまえもまだ手ぇつけてねぇんだろ? な? な?」
缶ビールをぐいっとあおり、唇についた泡を手で拭いながら、武典は言った。
「ばーか。半分は進んでるわ。ってか、冬休みもあとどんくらいよ? まだ手をつけてないほうがおかしいっての」
柔らかな弧を描いた一重まぶたを細め、翔は鼻を鳴らした。
「オリジナルの天使をデザインしろだなんて、むちゃ言うわ。そんな存在、信じてないってのに」
「そういう問題じゃあないだろ」
ため息をつくと、新たに缶ビールを開け、翔は話を続ける。
「創作力が試されてるんだって。デザイン工学部にいるんだから、それくらいわかれ」
びゅうびゅうと風が吹き、武典は開いているコートの前身頃を寄せ集めた。
「誰だぁ。こんな季節に外で酒飲もうって言いだした奴は」
「てめぇだ」
武典の頭を、翔が小突く。
「あっ、俺か」
武典はケタケタと笑いながら、言葉を続ける。
「だって居酒屋に行くより安いしさぁ。実家住まいだと騒げねぇもん」
「さっさと家、出てぇよなぁ。あー、二十歳になって堂々と酒が飲めるってのに、公園とか。笑えねぇ」
ふたりはどんどん酒の缶を空けてゆく。赤らんでゆく顔。つまみはないようだ。
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