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第14話
少年はすねたような表情を浮かべる。
「だって、わし……魂を霊体にして、バス停に案内するのばっかりな、流れ作業がつらかったんじゃもの。人と触れ合いたかったんじゃい。寂しくて……。わしは通過点でしかないんじゃ。誰も立ち止まってはくれん。好きこのんでこんな、なぁんもないところにはおってはくれん。神ちゃん、なぁ、神ちゃん。わし……このまんま、ずっとひとりなんかのぉ。だったら! シコネタ仕入れるくらい! 許してくれてもよかろうに!!」
「そんなふうだから、あなたの言う、低賃金重労働を課せられるのですよ。ここまでわたしを呆れさせることができるのは、あなたくらいですね」
「神ちゃんのいけず。意地悪ぅぅ!! どうせ最初から見てたんじゃろが! それならわしの悪戯をさっさと止めればよかったんじゃ! だから、悪いのは神ちゃんじゃろ!」
少年はさっ、と顔を上げ、わめき散らした。
「どういう理屈ですか……。あなたが何をするのかを見定めるために、あえて自由にさせたのですよ」
青年が眉をひそめる。
ふと、少年の顔が、ひらめいたといわんばかりに輝いた。
「のぉ、神ちゃん。ハメさして? わし、むらむらが収まらんくて。ハメさして?」
あどけない笑みを浮かべ、少年がねだった。
青年は涼しげな眉を、皮肉げに上げる。
「あなた、幼い身体でよくもまぁ」
「神さんが作った身体じゃろが! わし、生前はチンポコ立派だったのに!!」
そこまで言うと少年は、はっとした顔をする。
「もしや……神さんって、ショタコン?」
「悪人が入る器ですから、暴れられても困らないようにしただけのことです」
「でも、天使の七つ道具にランドセル選んだり、半ズボン選んだりするのは怪しくないかの!?」
青年の頰がひくり、と引きつった。
少年はわめき続ける。
「このちんまいチンポコだって、天使の仕事に必要なかろうて! 空腹もいらんのに、どうしてこんな面倒くさい器にしたんじゃ!」
「空腹を覚えれば、仕事をこなし、給料を稼ごうと思うでしょう?」
「……チンポコは?」
少年からじっと見つめられ、青年はまぶたをわずかに伏せた。
「どうしてそんなに下品な言葉遣いをするのか。……ああ、そこの布団も」
青年が手を挙げると、布団が新聞紙に変化した。
「没収しておきますね。そうそう、私的に使った天使の技―彼らへ勝手に着せた、柔道着の代金もいただいておきますから。では、わたしはこれで」
現れたときと同じような唐突さで、青年の姿は消えた。
ひとりとなった少年は、呆けたように新聞紙を見つめている。みるみるうちに大きな瞳に涙が溜まった。少年は顔をくしゃくしゃに顰めて、じたばたと暴れ始める。
「わぁぁぁぁぁ、鬼ぃぃぃぃぃ! お茶目なジョークなんにぃぃぃぃ!!」
少年は拳で床を、どん、どん、と叩き、続いてその場を転げ回る。暫くそうやって暴れてから、疲れたのか、肩で息をし、膝を抱えてその場へ蹲った。
「うう、ううう、酷い。ううう……わしも恋がしたいよぉ。愛を感じたいよぉ。ハメたいよぉ」
感傷的な声で言い、袖で涙を拭ったのち、みかん箱の前にすっ、と移動したそのとき、三足セットの靴下が、頭上からはらはらと降ってきた。
「ううっ、このタイミングで届くなんてぇっ」
彼は携帯電話を手にし、画面を見つめる。
「ああ、うう、残高、二千五十円。机も掛け布団もすぐには買い直せないじゃろ、これ。靴下買うんじゃあなかったわい」
少年は肩を落とす。
「みんな、今頃何をしとるかなぁ。わし、いつまで働かされるんじゃろ」
ずびびっと鼻を啜り、少年はテレビのリモコンを操作する。
テレビに映し出されたのは、道路に横たわるひとりの男だ。スーツを着た身体はぴくりとも動かず、アスファルトへじわじわと血が広がっている。
「たまには真面目に仕事しよ」
少年は長いため息をついた。
彼の小さな手が、ランドセルのかぶせを開く。
end
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