133 / 134

エピローグ

俺は高校を卒業して専門学校へと進んだ。 がむしゃらに勉強して、技術を磨いてバイトして…… 学生の期間はあっという間に過ぎていった。 今日は俺の家で卒業祝いと就職祝いをみんながしてくれる。 相変わらずの仲間達。 弟の康介と竜太君もこの春高校を卒業する。 竜太君は大学に進学。康介も、どういうわけか竜太君と一緒に大学生になる。 まあ、珍しく勉強頑張ってたもんな。 とにかく今日は色んなお祝いを兼ねて、久しぶりにみんなで集まることになっていた。 俺は少しだけ上達した料理を準備する。 そうは言っても、早目に来ていた竜太君と志音君がテキパキとご馳走を作ってくれるから、殆ど俺はその手伝い。 「もう少ししたら周さん達が来るって、さっき連絡来ましたよ」 竜太君が嬉しそうに話している。 周は卒業して就職するわけでも進学するわけでもなく、アルバイト三昧の日々。 修斗はアパレル勤めをしていたけど、すぐに志音のモデル事務所の社長にスカウトされ今はモデルの仕事をしているらしい。それでもモデルだけじゃ食っていけないからと言い、バイトもやってる。 靖史は家業の手伝いで酒屋勤務。 みんなそれぞれの道に進みつつ、こうして付かず離れずの距離で今でも仲良くやっていた。 「でも、こうやってみんなで集まるの久しぶりですよね。なんか楽しみだな!」 「でもさ、俺んち狭いしあんまり騒ぐなよ……」 俺は高校を卒業してから半年程で実家を出て独り暮らしを始めた。 バイト先からは少し遠くなったけど、学校には近くなったから通いやすかったな。 だいぶ料理が出来上がってきたところでインターホンが鳴る。 オーブンからケーキを取り出していた竜太君が「周さんだ」と呟き大慌てでケーキをテーブルに置き玄関へと走っていった。 ……可愛いなぁ。 賑やかに周と修斗、康介が部屋に入ってくる。 「あ、兄貴! なんか靖史さんが呼んでる。忘れもんがどうとか言ってまだ下にいるよ」 康介に「早く行け」と急かされ、面倒くせえなぁと思いながら外に出た。 「志音君と竜太君、悪い……適当に料理並べて始めてて 」 俺はそう言って下で待つ靖史の元へと急ぐ。 階段の下で靖史が手を振っている。 「悪いな、親父がさ、また髪カットしてくれってうるさくてさ。行ってやってくんね? あと俺忘れもんしたからついでにそれも持ってきてよ。玄関先にお前の好物置いて来ちゃったんだよ。せっかく用意したのにさ……」 そう言って靖史が申し訳なさそうに笑った。 「は? カット? 何も今日じゃなくていいだろ、親父さん…… 」 かなり面倒くさくて断りたかった。 実家と違ってここからじゃ靖史の家まで距離もある。それでも靖史の親父さんにはいつもよくしてもらってるから断れる筈もない。 「陽介もう呑んでる? まだなら、ほら……貸してやるよ」 そう言いながら靖史は俺に鍵を渡した。 「……バイクじゃねぇのかよ。チャリ?」 「そ。歩きよりマシだろ?」 「………… 」 俺は渋々、靖史の家に向かった。 靖史の親父さんは練習台になってやると言って、何度かカットさせてもらっていた。 鍛えていて若々しい親父さんだけど、最近白髪も目立ってきたから今度は白髪染めもしてやろうかな。 あの道を曲がったらすぐ靖史の酒屋…… 「…?」 店舗横の靖史の実家の前に誰かがこっちを見て立っている。 「え……」 見覚えのある赤い髪…… 近づくにつれハッキリと見える。 幻なんかじゃないよね? 「圭ちゃん……?」 俺が声をかけると、はち切れんばかりの笑顔を浮かべ大きく手を振るその人は、ハッキリとこう言った。 「陽介ただいま! 待たせてごめんね…… 」 end…

ともだちにシェアしよう!