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ちょっとその後のお話…

結局、靖史の親父さんのヘアカットの話は嘘で、店に行ったって臨時休業で誰もいなかった。 圭ちゃんに聞いたら靖史の親父さんは町内会の慰安旅行らしく留守で、靖史にまんまとしてやられたわけだ。 携帯を見ると靖史からメッセージが入っていた。 『陽介の好物、玄関先にあっただろ? よかったな! みんな待ってるから早く連れて来いよ』 好物って…… そういう事か。 思わず笑ってしまった。 「圭ちゃん、いつ日本に戻ったの?」 「ん、一昨日の晩に帰ってきたんだ」 聞くと、前のマンションには住めないから、新たな部屋に引っ越すまでは婆ちゃんちにお世話になるんだって。 そっか…… もうずっと一緒にいられるよね? どこにも行かないよね? ちょっと怖くてまだ聞けないでいた。 実はまだドキドキしている。 自転車の後ろには圭ちゃんが乗っている。信じられない。 少しだけ背が伸びたかな? 口に出すと、チビじゃない! って怒られそうだから言わない。 ドキドキして苦しいのに、さっきから顔がにやけてしょうがないや。 「でも何で靖史のとこに? まずは俺じゃないの?」 真っ先に俺に連絡をくれても良かったんじゃないかと思い、ちょっと不満に思いつつそう聞いた。 「だって……怖かったから。陽介が他に幸せ見つけてたらさ、図々しくて俺、顔出せないじゃん……」 小さな声でそう言いながら、俺の背中に頭をつける圭ちゃん。 「バカだな……圭ちゃん以外に俺にとっての幸せなんかないから。俺はずっと圭ちゃんのもんだよ」 自転車を漕ぎながら涙が溢れた。 よかった…… 本当によかった。 一日だって忘れた事なんてなかった。 康介や修斗がネットで泰牙や圭ちゃんの情報を調べてくれたりもしてたけど、見る気になれずに始めのうちは塞ぎ込んでたっけ。 ……もう絶対に離さない。 俺は後ろに乗っている圭ちゃんに、ちゃんと聞こえるようにハッキリと言った。 「もう絶対俺のそばから離れるなよ。ずっと一緒にいろよ……」 俺の背中に頭をつけたまま、圭ちゃんが「うん」と返事をする。 これからはずっと一緒だ。もう絶対にこの手を離すもんか。 俺の住んでるマンションにつくなり圭ちゃんが笑い出す。 「何? どうしたの?」 「いや……後でね。とりあえず部屋に行こうよ」 圭ちゃんにはぐらかされ、とりあえず部屋に帰った。 待っていたみんなは圭ちゃんを笑顔で迎える。 康介以外は…… どうやら康介以外はみんな圭ちゃんが戻ってきたのを知っていて、今日の集まりのメインは俺に対してのサプライズ。 康介は顔に出るしすぐに泣くからバレちゃうって事で、康介も今の今まで内緒にされてたみたい。 もう康介は泣きながら笑って圭ちゃんに抱きついてグダグダだった。 少し困った様子の圭ちゃんから康介を引き剥がす。 「兄貴! よかったな! 本当によかったな!」 今度は康介はグシャグシャに泣きながら俺に抱きつくもんだから……俺までつられてまた泣けてきてしまった。 おかげで鷲尾兄弟は「泣き虫」というレッテルを貼られる始末。 康介ムカつく。 その日はみんなで大いに盛り上がった。 おまけに更に嬉しい事が…… 圭ちゃんが住む部屋はもう決まっていて、今週末に引越しをするんだと教えてくれた。その引越し先というのが、俺のこの部屋の隣の空き部屋。 嘘みたいだ! さっき来た時に笑っていたのはこの事だったらしい。 「ほんとにいつでも好きな時に一緒にいられるね。俺ほんとツイてる! 陽介、これからもまたよろしくね」 嬉しそうにそう言って笑う圭ちゃん。 俺は堪らず、そんな圭ちゃんを抱きしめてキスをした。 真っ赤になって照れてる圭ちゃんが可愛い。 愛おしい。 もう二度と離さないから…… この春、俺たちの新しい生活が始まる。 これからはずっと二人で一緒に寄り添っていくんだ。 圭ちゃん、迎えに来てくれてありがとう。 end

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