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第1話
鳥たちの心地よいさえずりが朝を告げ、カーテンの隙間から光が差し込む。
まだ、眠っていたくて高宮勇真は寝返りをしたが、その眠りは目覚まし時計によって阻まれる。
仕方なく目を擦り、ゆっくりと目を開けたとき、気持ちよい目覚めが待っているはずだった。
だが、視界に入ったその姿から叫び声を上げざるをえなかった。
「な、な、な、なんで、おめぇがいるんだよ!!」
一番、いけ好かないやつの顔を朝一番に見てしまったのだ。
気分が悪くなるのは言うまでもない。
俺とは対照的に無邪気に笑みを浮かべながら、奴はこう言った。
「お前って、意外と寝顔かわいいんだな」
「は? なにいってんの? キモイ」
ぞわぞわぞわとした悪寒から鳥肌が立ち、眉間にも皺が寄る。
「あー、でも、取り消すわ。しゃべると最悪だ」
「んなっ・・・・・・!」
こいつは黒金(くろがね)和樹(かずき)。
世界一嫌いなやつだ。
そんなやつがなぜ、同じ部屋にいるのか、それはつい昨日の出来事である。
まずは、俺と黒金の出会いから話していこう。
高校一年生の春
俺、高宮勇真はこう見えても頭がいい。
自分が言うのも何だが、これでも中学の時は学年1位を時々とるほどでもある。だから、このちょっとレベルの低い高校で優等生にでもなってやろうと、ここ櫻義高校の入試を受けた。
しかし、俺の思惑は叶わなかった。
499点という高得点をとったが、黒金は500点の満点を取ったんだ。
しかも、あいつは俺と同様にイケメンで非常にもてていた。そんなやつに俺が上がるはずだったステージを奪われた。
何もかも、全てだ。
優等生としてあいさつをしたせいで学校のイケメンNO.1はあいつの手に渡った。
俺はNO.2だ。
そして、神様のイタズラか、あいつと同じクラスになった。
あの手、この手で、あいつに突っかかっても無視されるか、皮肉を言われるかだけ。
何をしても、俺なんかを相手にしないし、見向きもしない。
それからというもの、何をしてもトップはあいつ。
一度もNO.1の座を奪い取れなかった。
そして、しまいには俺の彼女があいつに惚れちまったんだ。中学から付き合って、3年も経ったのにここに来てあいつを好きになったから別れてと言われた。
そりゃないぜ。
だから、俺はあいつが大嫌いだ。
あいつも俺のことは心底、嫌っているようだ。
もちろん、俺がいろいろと嫌がらせをしているからだ。
嫌ってくれて結構!
俺が呪ってやる。いろんな恨み込めて。
そして、地獄に堕ちて、俺にわびやがれ!
こうして、4月、5月と過ぎ、6月を迎え、梅雨入りをした。
梅雨に入ってから独身だった母さんに恋人ができたらしい。
それも、毎日うきうきしてる。相手を思っているせいか母さんの周りにハートがよく散らばっている。
きっと良い人なんだろうな。
だから思い切って言ってみたんだ。
「母さんが幸せだったら、俺、どんな父さんでもいいよ」
「ゆうちゃん! それ本当!? 私、あの人と結婚するわ。ありがとうね」
母さんは嬉しそうに笑った。
これが俺の運命を大きくねじ曲げることになるとは知らず。
次の日、俺は高級そうなレストランにいた。
なんでも、母さんのお相手には俺と同じ年の息子がいるらしい。
籍はもう入れたから、お互い紹介しようって言う話になったんだって。
だから、この状況。
「あ、きたわ。勇樹さん!」
顔を上げ、父さんとなりうる人の顔をよく見た。
おー、イケメン。母さんが好きになるわけね。
そして、隣にいたやつを見て俺の顔が引きつった。
「なっ、んで・・・・・・」
その人の隣にいたのは黒金だったのだ。
やつも眉間にしわが寄っている。
こんなの誰が予想できるか!
母さんのお相手の息子さんが俺の大嫌いな黒金だなんて!
「さあ、和樹、自己紹介」
「え、あ、はい。初めまして、お母さん。俺、黒金和樹です。息子さんにはいつもお世話になってます」
何をぬけぬけといっとるんじゃこやつ!!
「まあ、もしかして、ゆうちゃんと同じ学校? これからも、ゆうちゃんのことよろしくね。さあ、ゆうちゃんも」
うぅぅ、マジかよ。でも、母さんの前だし。
「俺は高宮勇真です。父さんにはこれからお世話になります」
あえて、黒金の顔は見なかった。
それから、母さんたちのいちゃいちゃ楽しい食事は始まった。
俺は無言のまま用意されたものを口に運び、絶対に向かい合った黒金と目を合わせないようにした。
食事に集中していて、母さんたちの会話が耳に入ってなかった。
これはまずいことになる。
「ねぇ、ゆうちゃん、いいわよね」
いきなり、そう話をふられて、俺も笑顔を作って頷いてしまった。
「じゃあ、決まりね。明日からよろしくね。勇樹さん」
「そうだね。俺も早く真夏さんの手料理が食べてみたい」
え? まさか・・・・・・
「母さん、家はどうするのさ?」
「何いってるの、もう! ゆうちゃん話全然聞いてなかったでしょ!」
「ご、ごめんなさい」
「もちろん一軒家に引っ越すわ。勇樹さんが準備してくれた家にね」
えぇ・・・・・・何もかも急展開だな。
俺のフォークに突き刺していたにんじんがぽろりとお皿の上に落下した。
そして、次の日の夜
俺と母さんは元の家を引き払い、全ての荷物を持って父さんが用意してくれた家の前にいた。
「へぇ~、一軒家か。俺、結構あこがれてたんだよ」
「そうね。今日からここが私たちの家よ」
そう言って、母さんはインターホンを鳴らした。
すると、待っていましたと父さんが出てきて、母さんの荷物を受け取った。
母さんと父さんに俺の部屋に案内された。でも、そこにはやつがいて。
「え、ここって俺の部屋なんだよね?」
母さんとやつを交互に見た。
「そう、かずくんとゆうちゃんの部屋。今日から兄弟だし一緒の部屋よ」
「はい?」
「ごめんね。勇真くん部屋の数が少ない割に一つ一つの部屋が大きいんだ。だから、二人の小部屋が用意出来なかったんだ」
父さんは申し訳なさそうにした。
うぅ、父さんには迷惑をかけたくない。
「大丈夫です。父さん! 俺、この部屋気にいりましたから」
そう言ったら、父さんの顔は明るくなった。
「そうか、今日は疲れただろう。この部屋でゆっくりしてくれ」
バタンと扉は閉じ、現実を知る。
「悪かったな。俺と同じ部屋で」
そう、今日から俺は毎日こいつと嫌でも顔を合わせなければならない。
なんて残酷なんだ・・・・・・。
「ねえ、俺のベッドどっち?」
この部屋には左右に一つずつベッドがあった。他の家具も左右対称に置いてある。
「そっちだよ。ばーか。俺がこっちにいるんだからそれくらい分かれよ」
「バ、バカで悪かったな!!」
くそっ! なんなんだよ!
俺、こいつと上手くやれる気がしない。
ごめんよ、母さん。俺はここにはいられない。
そう思い、俺はドアノブに手をかける。
「おい。どこ行くつもりだ。荷物、持ったままで」
黒金はドアに手を当て俺を包み込む体制になっている。
「っ・・・・・・! お前、離れろ!」
向き直り、両手で押し返す。
「どっか行くんじゃねぇの?」
くそ、行きたいのに止めたの、お前じゃん!
何もかも見透かしたように怪しげに笑ったそいつから全然目が離せなかった。
「やめたよ。面倒くさいから」
「あっそ」
そう言ったら、椅子に座った。
くそーいらつくことばかりしやがって、おぼえてろよ!
おとなしく荷物を置く。
ベッド倒れ込んで横になったら、自然と瞼が閉じていった。
そして、冒頭へ
鳥たちの心地よいさえずりが朝を告げ、カーテンの隙間から光が差し込む。
まだ、眠っていたくて高宮勇真は寝返りをしたが、その眠りは目覚まし時計によって阻まれる。
仕方なく目を擦り、ゆっくりと目を開けたとき、気持ちよい目覚めが待っているはずだった。
だが、視界に入ったその姿から叫び声を上げざるをえなかった。
「な、な、な、なんで、おめぇがいるんだよ!!」
一番、いけ好かないやつの顔を朝一番に見てしまったのだ。
気分が悪くなるのは言うまでもない。
俺とは対照的に無邪気に笑みを浮かべながら、奴はこう言った。
「お前って、意外と寝顔かわいいんだな」
「は? なにいってんの? キモイ」
ぞわぞわぞわとした悪寒から鳥肌が立ち、眉間にも皺が寄る。
「あー、でも、取り消すわ。しゃべると最悪だ」
「んなっ・・・・・・!」
こうして、今日という日を迎えたのだった。
着替えを済まして、リビングに行った。
すでに、母さんが朝ご飯を用意していた。
「ゆうちゃん、かずくん。おはよう。昨日はよく眠れた?」
「おはよう。よく眠れたけど目覚めが最悪だったよ・・・・・・」
隣にいた黒金は笑いを堪えてる。
くそ。こいつめ。
目の前にやつの顔が目の前にあったのをまた思い出したら、悪寒がした。体中でやつを拒否しているのが分かった。
「そうなの? それは大変だったね」
うぅ、母さん。俺の気持ち悟ってくれー。
そして、そこで笑ってるやつ、地獄に堕ちろ。
朝ご飯を食べ終えると、学校に向かった。
当然、隣には黒金がいる。
「ちょっと、隣で歩かないでくれるかな」
「別にいいじゃねーか、同じ方向なんだし」
「な」
何、言ってんだコイツ。
「俺、お前のことでぇきれいなんだけど」
黒金にもわかりやすいように強調していった。でも、あいつは平然と応える。
「知ってるよ」
「ほへぇ?」
びっくりして、思わず変な声が出てしまった。俺は思わず口を塞ぐ。
「い、いつから!」
「そうだなー、入学当時ぐらいから? ずっと俺のこと睨み付けていただろう?」
ば、ばれてる!
「どうせ、これからさき、こういうのばっかだ。あきらめろ」
「いやだね。俺は絶対! お前とは馴れ合うつもりはさらさらない!」
そう怒鳴って俺はすたすたと早足で歩いて行った。
くそ! 誰が馴れ合うかってんだ!
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