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第1話 東雲冬夜の煩悶

 忘れられない夜の出来事。  ハロウィンの夜に、冬夜が過ごした美しい男との甘美なる逢瀬。  あれ以来、冬夜に変化が訪れた。まず、それまで所属していたサークルを抜け、研究室に入り浸るようになった。少しでも、あの時のことを思い出さないように、別のことで頭を一杯にさせるために。しかし首筋に残った噛み跡はいつまでも消えずに、ふとした時に冬夜に陶酔の一夜を思い出させる。  以前のサークル仲間の女子に、久々に会った時に言われた。 「東雲、なんか最近雰囲気変わったね。恋でもしたの?」  恋。そう言われると、この感情は恋に近いのかもしれない。  思い出すまいとしていても、ふとした時にアシュレイの顔が浮かぶ。ベッドの中で眠りにつこうとして、抱かれた夜のことを思い出して体が疼く。  ベッドの中で虚しい一人遊びをする頻度も増えた。その時に思い出すのはやはりアシュレイの声、表情、体、与えられた快楽。 「まさか…」  だがこんなこと、誰にも、特に今冬夜の目の前にいる噂好きの人脈有りな女子には話せないと思ったので、適当にはぐらかすのみだ。態度を曲解した彼女が好きな人がいるらしいと誰かに勝手に吹聴するかもしれないが、特に目立つような人間でもない冬夜の話題に食いつくような人もおらず、たまにあった友人に「彼女とはどうよ?」などを聞かれるくらいで冬夜は大学では変わらない日々を送っていた。  その女子に、ある日冬夜はとある大学の大学祭の店の割引券を譲り受けた。 「彼氏が、できるだけ多くの人に来て欲しいって、いろんな人に配ってるの」 「サークルのみんなには配ったのか?」 「配ったよ。それと友達にも。東雲も、元サークル仲間のよしみで!」 「ありがとう。それじゃあ、行けたら行こうかな」 「よろよろ〜」  手を振りながらまた別の友人に声をかける女子の背中から視線を外し、冬夜は渡された割引券を見やった。カラーだがどこか安っぽい印刷の端に、大学の名前と住所が記載されていた。その大学に冬夜は覚えがあった。  偏差値の高さは一流大学として名を連ねるには十分な、名門の大学。あの女子は結構インテリな彼氏がいるのだなとか、頭のいい学校なのにやることは高校生と変わらないのだなとか、そんなことよりも、高校時代に仲の良かった少し変わった性格の友人が、この大学に進学していたということを思い出していた。

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