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第2話 オカルトマニア甘崎一誠

 冬夜は気がつけばその大学祭に足を運んでいた。特に誰かを誘うでもなく、一人で訪れていた。大学祭は結構な盛り上がりを見せており、一流大学とはいえどの大学も基本的にはやることは変わらないのだなと思いつつ、割引券を消費するために建物の中へと入っていった。  すると、結構な客引きにあった。そこは、大学のサークルがそれぞれ出店するエリアであり、食べ物だけでなくイマイチ価値を見出せないアクセサリーや、自分たちで出版した本などが販売されていた。  冬夜はそのどれにも関心を抱けず、まっすぐ割引券が使えるところに行こうとすると、溌剌とした客引きの声たちから一際浮いた、呪詛のような声が聞こえて来た。 「いらっしゃ〜〜〜い。オカルト研究会よる占い館だよ〜〜〜。占星術や陰陽道、さらにマヤ文明の秘術やヨーガまで、色んな術を駆使した本物の占いってやつを見せてあげるよ〜〜〜〜〜〜」 「おいオカ研!!気色悪い客引きしてんじゃねーよ!気味悪がって客が逃げるじゃねーーか!」 「……甘崎?」  怒声を浴びせられる黒い服で全身を包んだ男に恐る恐る近づき、覚えのある名前を告げると、バッと黒服は被っていたフードを脱いで頭を露出した。 「その声は、東雲?」  皆が遠巻きに見ていた黒服の男は、明るい髪に怜悧な美貌をあらわにすると、冬夜の方を嬉しそうに見やった。女子たちの視線が一瞬彼に集まるが、格好からすぐに先程の不気味な客引きを行っていた人物と同一だと気づくとさっと再び何事もなかったかのように通り過ぎていった。 「久しぶり…相変わらずみたいだな。甘崎」  彼の名前は甘崎一誠(かんざきいっせい)。冬夜の高校時代の同級生で、友人の一人だ。高校の入学式は新入生代表として壇上に上がって挨拶をし、首席合格者というスペックとクールな印象を抱かせる美形ぶりで、一年生の頃は全学年の女子の人気を集めた。だが、その見た目に似合わぬエキセントリックな言動とオカルトに傾倒する変人ということで卒業近くには学校一の鼻つまみ者として扱われていた。  冬夜はこんな人間を表す的確な一言を知っていた。所謂、残念なイケメンだ。 「大学祭に来てたのか?一人か?」 「一人だ。友人に割引券をもらってな」 「よしよしよし!ならば友人割引ということで冬夜にオカ研部長である私の最新占いを格安でやってやろう!」 「一年なのに部長なのか?」 「そうとも!それもそのはず、今年オカ研に入って来たのは私一人!部員も私一人だからね!」  一人でサークルをやってそれも大学祭に出店する、心臓に毛の生えた一誠の精神力に感心しながらオカルト研究会の部室に案内される冬夜。肩を組まれて連れていかれる冬夜の姿は、さながら怪しい商売人に効果も不明瞭な幸福の壺を買わされた客を見ているかのような同情をさらっていった。  

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