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第3話

 部室に入ると、想像していたよりも整頓された光景が飛び出して来た。同時に冬夜は肩をすくめる。 (そういえば、こういうやつだったな)  南側に位置する冬夜の背丈ほどの本棚には、ぎっしりと様々な本が並べられている。ざっと見ただけで、数学・物理学・量子力学・生物学・医学などの理系の大学生らしい書物だけでなく文化人類学・哲学・心理学・考古学などの学術書、そしてオカルト研究会らしい神秘学の本も。多岐に渡る分野の専門書が並ぶ本棚を見るのは二度目だ。  かつて一誠は言った。 「大昔、オカルト的に捉えられていた事柄の多くは、時代の天才たちによって科学として証明され、現実の一部となった。私は、オカルトの中から新しいこの世界の現実を見つけ出したいんだ」  そう語った男の顔を冬夜は覚えていた。彼はただ不思議な事柄に惹かれているわけじゃない。オカルトを妄想するのではなく、現実に引き摺り下ろしたいと思っている。  ただ超常現象などをオカルトとして無条件に信じる人とは、少し毛色が違うのだ。  しかし、それを抜いても一誠は変人のため、このような一面を知っても友人であり続けたのは冬夜くらいだった。 「ところで、陰陽道?とかマヤ文明だとか、そういうなんか怪しいのは勘弁してくれよ?」 「ああ大丈夫。あれただの客引きで、本当はただのお悩み相談だから。まあ、お望みなら私の占い理論の実験台になってくれてもいいんだよ?」 「やめとく…」  お悩み相談か、と聞いて冬夜は真っ先にアシュレイのことを思い出した。いやいやと首を振り払うが、ここ最近考えるのはずっとそればかり。  一誠になら話せるだろうか、という考えが冬夜の中に浮かぶ。彼は、常識とか人倫とかの外側にいるような価値観の持ち主で、たとえ冬夜が男と寝たことを打ち明けても、なんとも思わないはずだった。 「その顔、何かあったようだけど、物の試しに、私に相談してみるか?」  冬夜の表情から何か抱えていることを察知したらしい一誠が、そう薄く微笑みながら言ってきた。  ___話すことで、少しでも気持ちが楽になるなら、と冬夜はとうとうハロウィンの夜の出来事を話し始めた。

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