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第24話

「あのなぁ。俺は九鬼をそんなふうには...」 「でも放っておけないくらいには大事なんでしょ?」 「そ、それは部下として...」 「じゃあ他の陣の部下が同じようになったとして、陣は今みたいに自宅に呼ぶ?」 「...それは.....」 煙を吐きながらニヤニヤと笑う弥生と陣。 自分が問いただされるような会話は滅多にないからなのか、俺は返す言葉を探してしまう。 「好きかどうかは微妙だけど気に入ってることは確か、って感じかな?」 「...し、知らん。」 「これから好きになっちゃう可能性もアリだな。」 「そんな可能性!あるわけない...!」 俺が九鬼を好きに?...そんなこと有り得ない。生意気で問題ばかりの九鬼の更正を支えているだけ、他の部下より特別扱いしているのか?とは思い始めたものの、そこに恋愛感情はないのだ。 「陣のことだから、一度懐に入れた人間には甘いんだろうなー。」 「そうそう。寝るだけじゃ甘やかし足りないんじゃない?」 「そのうち飯も食ってけとか言い出しそうだな。」 「有り得るね。」 ワイワイと想像の話で盛り上がる二人。それを聞いていると恥ずかしくなってきてしまい、手元の酒をグッと一気に流し込みおかわりを注文した。 からかわれるような二人の会話と、逃げるように飲み続ける酒...。もう上手く頭が回らない。 ーー確かに最近、『飯も食っていけばいいのに』と考えた事があった。 九鬼は言葉こそ生意気ではあるが、他は常識的というか、要求が少ないというか...。 煙草をくれとか、火を点けてとか、たまにコーヒーが飲みたいとねだるか、アイツの我が儘はそれくらい。俺はもっともっと面倒事に巻き込まれて九鬼の世話をしなくてはならないと思っていたから、それがどうも九鬼のイメージと違っている... そうひとりごとのように呟く俺に、二人は『つまり世話焼きたいんだな』と笑いながら言った。 「...そうだ...俺は世話してやりたいんだよぉ...」 そう言葉に出した所で、最近感じていたモヤモヤした感覚、スッキリしないあの感覚の理由が分かった。 俺はきっと心の何処かで九鬼に振り回されることを期待し、そうじゃない現実が残念だと思ったのだ。 もっともっと面倒を掛けていい、手の焼ける部下の世話をしてやりたい、そう思っていたのだろう。 「ははっ、本当陣って変わってるね」 「だな。あ、そういや今夜は大丈夫なのか?その九鬼は。」 「ああ...今夜は鍵を渡したからなぁ...」 「「鍵!?!?」」 「でも...もう遅いし待ってるだろう...俺は帰るぞ...」 「ちょっ、ちょっと待って陣!?!?」 「沙織さぁーん、お会計ー!」 背後でザワつく二人を残し、フラフラした足取りで店を出た俺は九鬼が待っているであろう自宅へ帰る。 心のモヤが晴れて気分が良くて...既に日付が変わり1時を過ぎていたことなんて全く気付いていなかった。

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