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第1話

キーン、コーン…… カーン、コォーン…… 「ネムくん、ネムくん―――見てみて、これ似合う?今年のブンカサイにこの衣装を着てお客さんをもてなしてってクラスの子から言われちゃってさ~……ねえねえ、どうかな―――似合う?」 最後の授業のチャイムが鳴り終わった途端に、共にマ界から人間界に堕とされ何年もの間――オレと相棒である夢魔のキッスが意気揚々に教室へと駆け込んでくる。 ネムくん、ネムくんと―――マ界にいた頃の呼び名ではしゃぎながらメイド服(もうすぐハロウィンだからか黒とオレンジを基調としたものとなっている)のスカートの裾をたくしつつ、すらりと伸びた生足を披露させている相棒ことキッスに対してオレは生暖かな視線を向けながら軽くため息をついた。 まったく、ニンゲン界では根室くんと呼べって言ってんのに―――。 木須、木須と―――ニンゲン界用の名前で呼んでんのがアホらしくなってくるだろうが―――。 【ニンゲン界でのルールその①→マ界での呼び名であるネム(オレ)、キッス(相棒)と呼び合わない】 【ニンゲン界でのルールその②→むやみやたらにマリョクを使わない】 と、共に誓い合ったルールをことごとく守る気配のない相棒ことキッスに呆れ果ててしまう。 (ったく……何がメイド服が似合うだよ……筋肉ムキムキのキッスに似合っている訳ないだろうが……キッスが周りにはべらかしてる脳筋バカなニンゲン共じゃあるまいし……っ……) と、オレがムカムカしながら尚も可愛いらしくポーズを決めているキッスに白い目を向けていると、キッスの餌―――もとい取り巻きである脳筋バカ共がジトーッとした嫌な目付きでオレを睨み付けてきた。 筋肉ムキムキな夢魔であるキッスは、オレらを堕としたヤツ(マ界の王子)【悪戯心による同族好意行進曲】とかいうふざけた能力のせいで―――自分とよくにた特徴を持つニンゲンから否が応にも言い寄られてしまうという厄介な試練を背負わされてしまった。 キッスは自分とよくにた特徴―――つまり筋肉ムキムキで野生味溢れたニンゲンの男から言い寄られてしまうという試練を___。 ネムことオレは自分とよくにた特徴―――つまり筋肉など微塵もなく優しそうで気弱な男から言い寄られてしまうという試練を___。 あのクソ王子の言いなりになるのも癪にさわるからキッスは夢を操る力を利用して脳筋で野蛮な男達の取り巻きを作りあげ、オレはオレでナヨナヨした頼りない男達の精を絞り取って取り巻きを作りあげていく上で一部のニンゲン達から変なアダ名をつけられてしまったのだ。 夢魔であるキッスは―――いわゆる体育会系の筋肉ムキムキな男達をはべらしてメロメロにしているという理由で【肉食系男子】というアダ名を付けられた。 淫魔であるオレは―――いわゆる気弱で頼りなさそうな優しい男達をメロメロにしているという理由で【草食系男子】とアダ名を付けられた。 『きみらが下等なニンゲン界で真実の愛を見つけられれば―――また、マ界に戻してあげる……っ……これはきみらがマ界で好き勝手にしてきた罰だからね♪』 あのクソ王子は―――オレとキッスをニンゲン界に堕とす前にそう言いやがった。しかし、もとはといえばキッスはマ界で1人者だったオレの隣に常にいてくれただけで―――好き勝手に他のヤツらの精をくらって羽目を外していたのはオレだけなのだ。 レンタイセキニンという訳が分からない理由で共にニンゲン界に堕とされてしまったキッスには―――本当に悪いと思っているし、これから償っていきたいとも本心では思っている。 「ああ、似合うぜ……木須……いや―――キッス……」 「ネムくんっ……あ、ありがとうっ……」 チラッ……と未だにメイド服でポーズを決めまくっているキッスを見つめつつ―――耳元でボソッと囁くと案の定調子に乗ったキッスがオレに抱きついてきて周りの取り巻きのヤツらの忌々しい視線が更に強烈なものになってしまうのだった。

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