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〈二〉

 幻殿の言う通り、私は男を知る身体でございます。  私は、赤子の頃に寺に棄てられていた子どもでした。  私を拾い、育ててくだすったご住職には、感謝の念しかございません。人の世に出ても恥ずかしくないよう、丁寧に読み書きを教えてくださいました。それだけではなく、箸の持ち方、膳の上げ下げの仕方にはじまり、茶の湯における作法まで仕込んでくださいました。それゆえ、今はどんな堅苦しい席に呼ばれても、戸惑うことはありません。  夜になると、ご住職は毎晩のように私の肌を優しく撫でてくださいました。しわがれた大きな手で、丁寧に丁寧に私の全身を撫でさすってくださったのです。物心つく頃には、私は夜になるとご住職のお布団へ自ら進み入り、自ら衣を脱いで横たわるようになりました。そして、慈しむように私の魔羅を撫で、唇で吸い、舌で転がすご住職に、身を委ねていたのでございます。  それが普通ではないということに気づいたのは、私と同じ年頃のお稚児さんが寺に入ってくるようになってからでございました。夜毎私の魔羅を吸い、尻穴に舌を抜き差しするご住職の行いにすっかり慣れてしまっていた私は、それの何がおかしいのか分かりませんでした。  あっという間に、私が夜の躾をなされているという事実は皆の知るところとなり、その頃から私は、若いお坊様たちから身体を求められるようになりました。ご高齢のご住職とは違い、雄の匂いと性的な欲望を露わににじり寄ってくる若い男たちに、最初は恐怖を感じたものでございます。  彼らはご住職と同じように、私の肌を大きな手でまさぐり、舐めまわし、時にはご自身の魔羅を「舐めろ」とおっしゃいます。言われるがまましゃぶらされた若い男のそれは、それはそれは熱く、硬く、そこから滴る雄の味はご住職のものとはまるで違って、私はひどく驚かされました。  えづくほどに喉の奥を突き上げられながら、別のお坊様に尻穴をねっとりと舐められました。同時に胸の尖を指で弾かれ、舐められ、濡れた男根の先端でくにくにと押しつぶされ、訳が分からなくなるまで気持ち良くさせられました。  そしていつしか、私は小さな尻穴に、若いお坊様たちの男根を押し込まれるようになりました。  指や舌とはちがい、それはあまりにも苦しいおこないでございます。私はその頃、まだ齢十二、三といったところでしょうか。四、五人の若いお坊様たちに代わる代わる男根を押し込まれ、熱いものを腹のなかに吐き出され、同時に肌を撫でられ、気持ちのいいところをたくさんの手によって高められ、私は気が狂うほどの刺激に涙を流し、そして同時に喜びを感じていました。  それは、お坊様のお役に立てているという実感です。みなしごである私に、こういった価値をつけてくださったご住職には、重ね重ね感謝の気持ちしかありません。幼い頃からじっくり丁寧に仕込まれた私の尻穴は、うまく男根を飲み込み、快楽を拾うことができました。  初めは感じていた恐怖も、いつしか甘美な喜びへと変わっていました。奪い合われるように求められる喜びと、あふれんばかりに身を染める快楽に、私もすっかり酔い痴れていたのでございます。  ですが、私が十八になる頃には、お坊様がたは私に見向きもしなくなりました。  私の肉体がすっかり男のものへと姿を変え、体毛もきちんと生えそろってしまったせいでしょうか。  その頃にはご住職もお亡くなりになり、私が代わりに方々へお勤めに呼ばれることが増え、忙しい身の上となっておりました。それを快く思わない者もいたのでしょう、私は、寺の中に居場所がなくなってきていることを感じ取っていました。  言いつけられる仕事といえば、色ごとのみ。といっても、私が誰かに抱いてもらえるということではなく、若いお稚児さんが入ってくるたび、私は彼らを性的に躾ける側へ回ることを命ぜられるようになったのです。  ですが生憎(あいにく)、私にはそちらの仕事は向きませんでした。性的に開かれていく初い肉体を見ていると、かつて大勢に愛されていた記憶が蘇り、嫉妬心をたまらなく駆り立てられてしまうのです。醜い感情に染まってゆく己の心を傍観しつつ、私は淡々と与えられた仕事をこなしました。  ですが、私が躾けたお稚児さんが、たくさんのお坊様に愛される様子を見つめるたび、心と身体がじくじくと痛みました。  炊事の最中、厩の物陰、または風呂場などで着物をめくられ、桃のように愛らしい尻を逞しい魔羅で突き上げられ、高らかに甘い声を上げるお稚児さんの姿を盗み見るたび、『私にもして欲しい』という欲望がむくむくと鎌首をもたげ、私の何かを狂わせました。  そして、私は生まれ育った寺を出ました。  ほうぼうを旅するうち、流れ着いたこの静かな村で、私は一生平穏に過ごしてゆくものと思っていたのに……。 「あ、ぁ、っ……ァっ……ふぅっ……ンっ……」  こんなにも淫らな声を出すのはいつぶりでしょう。久方ぶりに男を受け入れた私の尻穴は、喜びのあまり、突き刺さった男根をひくひくと締め付けています。まず私に突き刺さっているのは、瑞々しく若い男根。欲に濡れた瞳で私を見ていた、あの少年でございます。 「あ、なにこれ、あ、すげぇ、はぁっ、はぁ、腰止まんねぇっ」 「うふっ、ん、んぁ、あっ、」  幻殿の逞しい肉体に身体を凭せ掛けながら、私は少年の抽送に揺さぶられているのでございます。  乱れきった着物はもはや私の肢体にだらしなく絡みつくばかりで、まともに身に着いているのは白い足袋ぐらいのものでしょう。  若い彼にとっては初めてのまぐわいであるらしく、動きは拙く幼いものでございますが、あふれんばかりの欲求をぶつける腰の動きはあまりに猛々しく、私の鈴口からもとろとろと体液が溢れ出してしまう始末でございます。 「もっと丁寧に味わえよ、陽路(ようじ)。せっかくの筆下ろしだろ?」 「だって、だって、すげぇ、あぁっ……気持ちいい、お坊様の中、あったかくて、きゅんきゅん締めて……っ!」 「ははっ、まるで猿だな。芸も何もあったもんじゃねぇ」 と、幻殿は私の胸の尖をいやらしく撫で回しながら酒を飲み、弟分の筆下ろしをを眺めては笑っています。その隣で、美貌の男・伊佐殿もにやにやと艶なる笑みを浮かべつつ、はしたなく立ち上がった私の魔羅の先端を、白い指でくりくりと撫で回すのでございます。 「あ! ぁ、んっ……お坊さま、やべ、出ちまうよぉ……!」 「ぁ、あっ……いく、っ、いくぅっ……!! ぁ、ひゃあっ……んっ……!!」 「うわ……あぁっ……! すげ、もっと締まっ……あぁ、ンっ……!! 俺もでる、でる、でるぅっ……!! ぁ、ああっ……!!」  びゅうるる……と腹の奥で弾ける若い体液が、かつての記憶を呼び覚まします。  いつまでも終わることがないかのような長い射精をしながらも、陽路殿はぐ、ぐっと、もっと奥へと放つように、腰を震わせているのです。雌の腹にしかと根付かせようという、雄の本能なのでしょう。 「ほうら、空いた。ははっ、次は俺か」 と、楽しげな声で笑いながら、伊佐殿が腰をあげました。  どろぉ……と尻穴から溢れ出す陽路殿の体液の熱さを感じつつ、私はうっとりとした心持ちで伊佐殿を見上げます。這うように私の上へやってきた伊佐殿の肉棒は、痛そうなほどに張り詰めていて、それはそれは立派なものでございます。女人のように美しい顔をしていらっしゃるのに、なんと猛々しい逸物でございましょう。 「ふふ……ああ、好い顔だ。お前みたいにお高く止まった野郎をぶち犯すのが、俺は楽しくて仕方がねぇ」 「あひぁ……ッ……ん」 「幻、もっと尻を持ち上げさせろよ」 「へいへい」  幻殿は私の両膝に腕を通して、汗ばんだ下半身をぐっと持ち上げました。なんという屈辱的な格好でしょう。まるで、大人に小便の手伝いをされる、幼子のような格好ではありませんか。  そして更には、つい(さっき)まで陽路殿を受け入れていた尻孔を指で広げられ、伊佐殿と陽路殿の前に晒されてしまいます。耐え難い羞恥に、頬がかっと熱くなりました。ですが同時に、その恥ずかしさが、私の興奮を確かに煽るのでございます。 「ほうら……お坊様、あんたも欲しけりゃ強請ってみろよ。俺は奥手なんだ」 「あ……あぁ!」 「物欲しそうにひくつかせやがる。……ははっ、だらしのねぇ」  伊佐殿が、再び私の屹立をしごきながら、甘い声で囁きます。酷薄でありながらも艶なる微笑みは、まるで鬼のように邪悪なのに、その声はまるで天女のように優しいものでした。 「……あの……ください。その……」 「え? 何が欲しいって? 俺は学のない男でね、はっきり言ってくれなきゃわからねぇよ」 と、伊佐殿は身を屈め、私の胸をねっとりと舐り始めました。赤い舌が乳輪を辿り、つんと尖ったそれをいたぶります。私は「ぁ、ぁん……ンっ……」と身悶えながら、涙目になりながら伊佐殿を見上げました。 「わたくしの……いやらしい尻穴に、あなたの、ま、魔羅を挿れて、ください……」 「まぁ、いいことにしてやるか。ほらよ、好きなだけしゃぶりな」  伊佐殿はばっと着物の前をはだけました。女物の大振りな柄が描かれた着物の下から、にゅうっと空に向かってそそり立つ剛直が姿を現し、あっという間に最奥まで突き上げられます。  唐突に襲いかかる甘い絶頂に、私は「ひぃっ……あ!」と声をあげ、背中をしならせ吐精してしまいました。  そこからは、まるで戒めから解かれた獣のように、伊佐殿は荒々しく腰を振っておいでです。尻を突き出す格好をさせられているせいで、ぬっちぬっちと若い雄芯が出入りする様が、はっきりと見て取れます。こんな暴挙は許されることではないはずなのに、伊佐殿の雄が出入りする己の尻穴から、私は目が離せませんでした。 「ぁ、あぅ、あぁ、あん、ぁ、っ」 「あはっ……あぁ……()いぜ。女の穴よりよっぽどいい。ハァ……まさか、こんな糞田舎で坊主を犯せるなんてな」 「あ、いく、いくっ、また、ァ、ひっ……ぁあ、ああ!」 「またかい? ったく、堪え性のねぇ坊主だな。そんなに美味いか? 男のこれが? あぁ? どうだ」 「おいひぃ、です……っ……ァあ、ん! はげしいの、すごい……すごいです……ッ!」 「はははっ……!! まるで売女だぜ。……おら、たっぷり出してやるから、こぼさねぇように飲みやがれ。おらっ! 飲め!!」 「ん、ふっ……ンんんんっ——……!!」  一度絶頂の味を思い出してしまった私の身体は、もはやとどまるところを知りません。  腹の奥から男の匂いに染まっていくことへの快楽が、私の理性をとうとう壊してしまいました。

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