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番外編『冬』ー後ー

  「あ、翠円、起きた?」  ぼうっとする頭で目を開くと、陽路のきらきらした瞳が目の前にありました。  私はきちんと身を清められ、清潔な布団に寝かされています。 「陽路……おかえり……ぁっ、いた……」  起き上がろうとして、ずんと響くような腰の痛みに私は顔を歪めました。後孔のあたりにもじんじんと違和感があり、全身が気だるく熱っぽいのでございます。  この不調が、幻と伊佐のふたりぶんの剛直を受け入れたがため、ということは、安易に理解できました。 「起きたか、翠円」 「あ……幻」  盆の上に粥を乗せた幻が、足で襖を開いて入ってきました。なんとお行儀の悪いことでしょう。注意をしなくてはと思いつつも、身体のだるさに気力が負け、私はばたりと枕の上に頭を戻してしまいました。 「すまねぇな、無理させちまって」 「い、いえ……私がそうしてほしいと強請(ねだ)ったからでございましょうし」 「え、なになに? 何の話?」 と、陽路が耳聡く会話に割って入ろうとしてきましたが、幻はぺしっと陽路の額を軽く叩き、「がきにはまだ早ぇ」と言いました。 「んだよ、俺のいねぇ間に三人でまぐわってたってだけの話だろ? しかも、翠円がこんなになっちまうまでやるなんて。幻兄たちも加減ってもんを知らなくちゃ」 「うるせぇな。いいじゃねぇか、おめぇは昨日ふたりきりで好いことしてもらったんだろ? それであいこさ」 「う……なんで知ってんだよ」  陽路がややばつの悪そうな顔をしているのを見て、私は思わず笑ってしまいました。すっかり表情豊かになった陽路の愛くるしさには、日々癒しをもらっているのでございます。 「おい、熱さましを煎じてきたぜ。飯、食えたか?」  とそこへ、伊佐が美しい所作で襖を開き、部屋の中へと入ってまいりました。幻とは違い、礼儀作法には細かい伊佐の仕草はさすがのように優美でございます。 「今からいただくところですよ。すみません、お手を煩わせて……」 「何言ってんだ。たまには看病ってのも悪くねぇや」  そう言って、伊佐は私の額の汗をそっと拭い、心なしか気遣わしげな目つきで私を見つめています。 「尻、痛ぇだろ。いやーさすがに二輪挿しってのは無茶だったかねぇ。俺はめちゃくちゃ盛り上がったけどな」 「に、にりんざし!? え、え? なにそれすげぇ!? どうやんの!?」  幻が隠していたことを、伊佐があっさり口にするものですから、俄然陽路の興味を引いてしまったようでございます。幻は呆れたように頭を掻き、「ったく口の軽い野郎だな」とぼやきました。 「ねぇ、何それすっげぇな。今度俺もやってみてぇよ!」 「いやいや、三本も入るわけねぇだろうが」 と、伊佐が首を振ると、幻がゆっくりと頷きました。 「だいたいほら、見てみろ。二本でもかなり無茶させちまったんだから」 「んだよぉ、俺だけのけ者かよ」 と、すっかりへそを曲げてしまった陽路の頭を撫で、私はにっこりと笑いかけました。 「陽路とのまぐわいも、私は好きですよ? すっかり上手になりましたものね」 「えっ? ほ、ほんとか!?」 「はい。いっときは赤子のように私の乳を吸うていたのに、すっかり男らしくなって……」 「ぶぶっ、赤子ってか!」  私の言葉を聞いた伊佐が、噴き出して笑い始めました。それにつられるように、幻も珍しく、「はははっ、赤子の乳吸いか。がきだからしょうがねぇや」と声を立てて笑っています。 「んだよ赤子って!! 昨日はすげぇ『気持ちいい気持ちいい』って、いっぱい達してくれたのに!!」 「ええ……はい」 「そ、それに、翠円おっぱい吸われんの大好きだろ! 乳首舐められるだけで泣いて喜んでくれるから、俺はいっぱい舐めるんだ! 断じて乳恋しいわけじゃねぇ!!」 「ええ、そうですね。すみません、ふふ」  陽路は真っ赤になってふくれてしまい、私は大慌てで彼の機嫌を直しにかかろうとしましたが、むくれ顔の陽路が愛らしく、ついつい笑ってしまうのでございます。 「もう! いつまで笑ってんだよ! すげぇんだぞ俺だって! なぁ? すげぇよな!?」 「ええ、とても。あと数年したら、私は毎回気を失ってしまいそうですよ」 「だろ!? ほら見ろ! 俺だってもう、いっぱしの男なんだ!」 「へいへい、そうだな。それより翠円、粥が冷めちまう。早く食いな」 「ああ、ありがとう、幻」 と、幻が匙で粥を掬って、食べさせてくださいます。伊佐はいつまでも陽路をからかっては、けらけらと楽しそうに笑い転げています。  凍てつくような冬の夜も、こうして笑い合っているだけで、心も体も温まるものでございます。  多少いびつな関係とは存じておりますが、私たちはこうして身を寄せ合い、肌を寄せ合い、日々を笑って暮らしてゆく。そういう日々は何にも代えがたく、ありがたきことと存じます。  この荒れ果てた時代の中、心許せる誰かと笑顔で過ごす。  それはとても、幸せなものでございますね。  終

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