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番外編『冬』ー中ー

「へ、へへっ……いいね。俺もなぁ、さすがに坊さん犯すのはどうかと思ってたとこなんだよなぁ」 「そうかい。じゃあ、しっかり楽しませてくれよな」  ぬっと伊佐に伸ばされる太い腕。しかし伊佐は流れるような動きでその腕を掴むと、そのままぐんと背負い投げを極めました。  どしん……!! と重たい地響きとともに、下半身を露出した恰幅のいい旅人が、大の字になって転がっています。 「なっ……な、な、何をする……!!」 「おっと、すまねぇな。手が滑った」 「て、てが、すべっ……!? こ、この野郎……!! この俺を馬鹿にしやがって……!!」  おたおたと立ち上がりかけながら、旅人は腰から短刀を抜きました。  そこに刃物のぎらつきが現れた瞬間、ぴんとその場の緊張が高まります。私が息を呑む音が聞こえたのか、伊佐がちらりと横顔で振り向きました。 「動くなよ、翠円」 「は……はい。ですが、伊佐」 「まぁ見てろって」  私の視界を塞ぐように立ちはだかった伊佐の腰には、一振りの刀を帯びてあります。あくまでも護身用として身につけているそれで、伊佐はこの男を斬り捨てるのでしょうか。  私の油断のせいで、伊佐にひとごろしをさせてしまう――そう思った瞬間、全身を氷の針で貫かれるかのような心地がいたしました。 「伊佐、だめです……!!」 「う、ぐっ……!!」  その時、旅人がばたりと倒れました。伊佐は刀を抜いていないのに、妙なことでございます。  驚き、ふらりと立ち上がった私は、旅人の背後に幻が佇んでいることに気づきました。どうやら、人体急所の一つであるうなじに、幻の手刀が叩きつけられたようでした。  腰に大小を挿し、濃灰色の着物に袴をつけ、悠然とした姿でそこに立つ幻の姿は凛として、見惚れるほどに頼もしいものでした。堂々たる立姿で不届きものを見下ろす幻のまなこには、ゆらゆらと怒りの炎が浮かんでいます。 「大丈夫か、翠円」 「あ……は、はい。大丈夫です……」 「やれやれ、あんたは一人で留守番もできねぇのか? こんな薄汚ぇ糞親父を引き寄せるんじゃ、おちおち一人で寺に置いとけねぇな」 「なっ……」  まるで幼子への物言いです。私があっけにとられていると、一陣の木枯らしが幻の黒髪を揺らし、黒い眼帯が見え隠れいたしました。  それは、ここへ住まうようになってすぐ、私が幻のために(あつら)えた、黒革の眼帯でございます。  幻は手首に巻いていた晒しで旅人の手首を後ろ手に縛り上げると、首根っこを掴んでくるりと踵を返しました。 「村はずれに捨ててくらぁ。伊佐、翠円を井戸できれいに洗ってやんな」 「おう」 「あ、幻! 手荒なことは……」 「へいへい、分かってるよ」  私の言葉を遮って、幻はつかつかと坂道を下ってゆきました。しばらく伊佐も幻の背中を見送っていましたが、やれやれと呟いて立ち上がります。 「幻のやつ、相当頭にきてやがんな」 「え……? そ、そうなのですか?」 「あいつ、怒るとものすげぇ無表情になるんだ。……ま、無理もねぇか」  伊佐は私の肩を抱いて井戸端までゆき、手ぬぐいに水を浸して丁寧に肌を拭いてくださいました。不本意ながらも旅人に高められてしまった肉体に、冷えた井戸水は刺激が強すぎるようで、ついつい嘆息が漏れてしまいます。 「ん、あっ……ふぅっ……」 「というか、俺らというものがありながら、油断も隙もあったもんじゃねぇなぁ?」 「だ、だって……道に迷われた不憫な方と思ったから……」 「お人好しだなぁ、翠円は。世の中にはなぁ、悪ぃことばっか考えてる塵屑(ごみくず)みてぇは奴らがごまんといるんだぜ?」 「分かっています……今も世は荒れておりますから。でも……」 「そうだな、あんたは優しいから。だから俺たちみたいなのに、こうして愛されちまうんだ」 「ん……」  井戸水で濯いだばかりの私の唇を、伊佐は優しい手つきで拭いました。そして、伊佐の唇がそっと私のそれに重なります。  旅人に掻き乱された時はあんなにも気持ちが悪かったのに、伊佐から与えられる接吻は、私の心をゆったりと溶かし、満たしてゆくのでございます。 「……いさ……」 「俺が綺麗にしてやるよ。……ほら、舌、出しな」 「ぁ……あぅ」 「ふ……素直じゃねぇか」  天女のように優しい笑みを浮かべた伊佐に心ゆくまで舌を吸われ、さきほどから私の中で燻り続けている熱が、じわじわと全身を焦がしてゆきます。引き寄せられるように伊佐の首に腕を回すと、さらに強く抱き寄せられました。 「ん、ん……ぁ……」 「……好(い)い声だな。そんな声出して、あの助平親父を煽ったのかい?」 「そ、そんなことをするわけが……ぁ、あんっ」  伊佐はひょいと私を横抱きにすると、ずんずん母屋の方へと歩き始めました。私とさほど背格好は変わらないというのに、なんと力強い腕でございましょう。 「まだ身体が火照って仕方ねぇんだろ。俺たちが、存分に散らしてやるよ」  畳の上に私を座らせ、伊佐はそう言って微笑みました。すると、その背後から、幻がぬうっと姿を現します。  真っ青に晴れわたった明るい空を背負う二人の表情は、逆光で定かには見えません。ですが、ふたりがぎらつく雄の目をしていることだけは、なぜだかはっきりと分かりました。  熱く硬い楔に攻め立てられる快楽を知る私の肉体は、じわじわと期待に燃え始めます。  私は自ら着物を肩から滑らせ、脚を開きました。  そして、「どうか……お願いいたします」と懇願いたしたのでございます。  + 「はぁ、あ、あ! あんん、んぁ、ハァっ……!!」  そこからは、ただただ喘ぐことしか許されませんでした。二人の男が、代わる代わる男根をねじ込んでは、腹の奥へとたっぷり精を吐き出すのでございます。  戸を締め切った薄暗い部屋の中で、私たち三人の荒い吐息が響いています。私のはしたない窄まりから溢れ出した白濁が、猛々しい肉棒によって掻き乱され、じゅぷ、じゅぷ、と淫らな音を響かせるのでございます。  そして今私は、片膝を立てて座る幻の膝の上に頭を置き、ぷっくりと膨れ上がった両の乳頭を、硬い指先でこねくり回されています。  腹の下では、夢中で腰を振る伊佐が、剛直を抜き挿ししている様がはっきりと見えるものですから、いやらしくて、愛おしくて、たまらない気持ちでございました。 「はっ、はぁ……好いな、翠円、やればやるほど、どんどん、からみついてきやがる……」 「ぁ、あ、っん、いく、また、ぁ、いくっ……ぁ、ぁあ……」 「ははっ、まだ気をやるなよ。幻がまだまだ物足りねぇって顔してっからな」 「ん、んぁ、うっ、ぁん」  荒々しく私を揺さぶった後、伊佐は「……出すぜ……っ」と呻いて腰を震わせました。さっきまで凛々しい若武者姿でしたのに、今はすっかり着物が乱れ、伊佐はただならぬ色気を放っています。  最奥を穿ったまま、私に接吻を与える伊佐の髪が胸に触れ、「んんっ」と声が出てしまいます。きっちりと結わえていた髪を乱し、頬を上気させる伊佐の姿は、私よりもよほど妖艶で美しく、うっとりと見惚れてしまいます。  すると、私に膝枕をしていた幻が、焦れたような声でこう言いました。 「おい伊佐、早く代われ」 「ん……ちょっと待てよ」 「ったく、見せつけてくれるじゃねぇか」  着物を一枚羽織っただけという格好の幻の股座からは、ぬう、と剛直がそそり勃っています。つい先だって私の中に穿たれていた幻のそれを、私はまたぞろうっとりと見つめてしまいました。  すると幻は眼帯で隠れていない方の目をうっそりと細め、舌なめずりをいたしました。 「どうだ、もっと欲しいか? 翠円」 「ほ……ほしい、です……! もっと、わたくしを、求めてください……!」 「ふ……仏に仕える坊主とは思えねぇ蕩け顔だぜ? かわいいな」 「んん、あ……」 「かわいいよ、お前は。だがな、そういう顔を見せていいのは、俺たちだけだ。分かるな?」 「うん、っ……ぁ、わかって、ます……っ、ァ!」  引き起こされ、かりぃ……っと乳頭を噛まれ、私の魔羅からは勢いよく透明な体液が迸りました。  胸元を吸われ、舐め回され、甘噛みをされ、私はあられもない悲鳴をあげ、気を失いそうなほどな快楽に溺れました。  ずん……! と深く穿たれた幻の肉棒で、甘い痺れが全身を駆け巡ります。私の後孔はすんなりと幻の魔羅を受け入れ、浅ましくも快楽を貪り続けるのです。  すると、背後から伊佐がすり寄って、私のうなじから耳たぶまで舌を這わせました。そして、艶かしい吐息を漏らしております。 「なぁ……俺も一緒に楽しませてくれよ」 「ああ? お前、また挿れてぇってのか? ちょっとくらい大人しくしてろよ」 「だって、たまんねぇよ。翠円と幻がまぐわってるとこ、ひとりで見てるなんて。なぁ、いいだろ?」  伊佐はどこか熱に浮かされたような表情で、私の肩ごしに幻と口づけをいたしました。  耳元で舌が絡み合う音がねっとりと響き、幻と伊佐の倒錯的な接吻のもように、私はいたく興奮してしまうことに気づきました。  このまま三人で蕩け合えたら、どんなに素晴らしいでしょう。私は腕を持ち上げて伊佐の髪に触れ、こう囁きました。 「伊佐も……いいですよ? わたくしの、なかに……」 「本当か? きついかもだぜ?」 「いい、いいのです……あなたがたになら、わたくしは、どんなことでもされてみたい……」 「ったく、酔狂な助平坊主だなぁ」  と、幻は苦笑し、今度は私に濃密な接吻をしてくださいました。  伊佐は自らの肉棒に椿油をたっぷりと塗り、そして、幻に貫かれている私のだらしない窄まりへ……。 「ぁぁあ……っ! うっ、く……ンっ……」 「っと……さすがに、きついか」  幻が少し眉を寄せ、背後の伊佐も、少し苦しげに息を逃しています。  めりめりと身体を裂かれるような痛みと圧迫感に苛まれもしますが、私はそれ以上に、二人の美しい男に激しく求められるという行為に激しく心を灼かれています。まともな思考など出来うるはずもございません。 「いれて、もっと……っ、だいじょうぶです、いれて、伊佐……っ」 「お前さん、平気なのか?」 「へいき、です……ほしいのです、ほしいのですっ……!」  うわごとのように欲を求める私の唇を、幻が優しくついばみました。両手で頬を包み、何度も。私を宥めるような優しい仕草で。 「力抜け、翠円……ほら、俺を見ろ」 「ん……げん……」 「本当に、かわいいな、あんたは」 「ぁ……」  戯れのような口付けを交わしていると、ぬ、ぬ……と伊佐の肉棒が私の内壁を掻き分けて、中に這入ってまいりました。幻の優しい接吻ですっかり力が抜けていたおかげで、先ほどよりも、その動きは幾分滑らかでございます。  ただでさえ長大な幻の陰茎です。そこへさらに、伊佐のものが分け入ってくる——余すところなく腹の奥を満たされて、全身から力が抜け、頭が真っ白になってしまいました。 「あ! ぁ、あぁ、んんんっ——……っ!」  下腹につくほどに反り返った私の屹立からは、止まるところを知らぬかのように蜜が溢れかえります。なんとはしたなく、淫らな行いでしょう。ですが私は、ふたりから与えられる快感に夢中で、揺らめく腰の動きが止まりません。  すると、私の中が少し馴染んできたようで、幻と伊佐は交互に腰を振り始め、前後から私を責め立てました。 「ぁ! ぁ、ひぅっ……ァ! あ、あん! はぁっ、はぁっ……!」  力が入らず、幻にもたれかかりながら、腰だけが浮いているような状態でございます。幻と伊佐の心地好さそうな嘆息や、背後から私を抱きしめる伊佐の濡れた肌の感触が、私たちの境界を蕩けさせ、まさにひとつになっているという感覚を与えてくれます。  すると、体液で濡れそぼった私の屹立を、幻が大きな手で握り込み、上下に擦りはじめました。私は思わずびくん!! と腰を跳ね上げ、いやいやをするように首を振ります。 「あ! やっ……げん……っ、ンっ……まっ、ぁ、さわらないで……っ……」 「すげぇな、潮吹きっぱなしじゃねぇか。はっ……たまんねぇな」 「ん、ぁ、うぅンっ……! も、わかんない、ァん、わかんないよ……っ、んぁ、あ!」 「くっそ……も、俺も、もういきそうだぜ……っ……ん、ん、っ」  伊佐の極まった声が耳をくすぐり、それさえも私を絶頂に追い詰めます。すると、伊佐の動きに呼応して、幻の突き上げも激しくなりはじめました。  これ以上ないというほどの快楽の坩堝に飲み込まれ、私は「ぁう、らめ、へんになる……っ、ぁん、へんになっちゃう……っ……!!」と、喘ぎとも悲鳴とも取れないような嬌声をあげながら、淫らに乱れ狂ってしまいました。  そしていつしか、気を失っていたのでございます。

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