1 / 10
1
小さい頃から見てはいけないものが、僕には見えていた。
例えば、黒いマントを羽織って、フードを目深く被っている男が病院内を彷徨っている姿とか。
例えば、葬式をしている家の前に、ずぶぬれになっているその家の故人が立っていたりだとか。
僕がそのことを口にすれば、周囲の人は狂言癖があると思うか、気味悪く思うかのどちらかだった。ただ唯一、祖父だけは僕の言葉を信じてくれて、いろいろな魔よけの知識を教えてくれていた。
「いいか。昔からの言い伝えというものは、それなりに根拠があって行われてきたことなんだ。それを蔑ろにする者は、いつか痛い目を見ることになるだろう」
祖父はそう言って、僕の頭をなでてくれた。孤独を抱えていた僕にとって、それは心を溶かすような温かさだった。
僕にとっては祖父は唯一の理解者であり、尊敬できる人でもあった。けれども両親や親戚はただの変わり者のとしか思っていないようで、祖父が行う魔よけの儀式をよくは思っていない。
古くからの日本行事であるはずの正月、玄関などに飾る立派なしめ縄や門松にすら文句を言う始末だった。それに何万もかけるのだったら、古くなった家の修繕費に当ててほしいとでも思っているのだろう。
祖父が魔よけの行事の中でも特に、ハロウィンが一番煙たがられていた。カボチャをくり抜いた中に蝋燭を立て、お菓子を用意しては今か今かと祖父は子供たちが来るのを楽しみにしていた。
近所の子供たちはお菓子をくれるのなら何だって良いらしく、ふだんは変わり者の祖父と孫の家であっても訪ねてくる。
玄関で騒ぎ立てる子供たちを鬱陶しく感じていた母は、やめてほしいと何度も祖父に訴えていた。母だって別に子供が嫌いなわけではないだろうけど、周囲から変わり者の住む家という認識をされるのが嫌だったようだ。
まだハロウィンという行事が日本では浸透していないうえ、田舎町でそんなことをしようとするのは祖父ぐらいなものだったのかもしれない。人と違うことをすれば、それが決して間違っていなかったとしても、排除しようとするのが人間の心理なのだろう。田舎町では特に、仲間意識が強いせいなのかそれが顕著に表れているようでならなかった。
ともだちにシェアしよう!