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 祖父が死んでしばらくすると、僕は家にもこの町にもいづらくなっていた。たとえ僕が見えたことを口に出さなかったとしても、一度貼られた変わり者のレッテルはそう簡単には剝がせなくなっていたのだ。そのことで僕は、より一層の孤独感に苛まれていた。  そんな最中、近所に住む小野 祐司という僕より五個上の青年だけは、分け隔てなく普通に接してくれていた。その当時、僕は高校三年生で、彼は大学を卒業したばかりだった。  彼は都内の大学を卒業すると、なぜかこっちに戻ってくるとのことだった。彼なら向こうでも上手くやっていけそうなのに、わざわざ何もないこの町に戻ってくるのは彼の真面目さゆえなのかもしれない。  そんな親思いで生真面目な彼は、こっちに帰ってくるなり町の女性たちがこぞって狙っていた。精悍な顔立ちで容姿端麗。男の僕でも格好良いと思っていたほどだ。優しくて真面目な性格で、家も代々続く旅館で資産もかなりのものだろう。そんな彼を周囲が放っておくはずがなかった。  僕の両親ですら「親孝行で良い息子だこと」と口を開けばそればかり言っていた。その言葉を聞くたびに、僕は今までのことを省みる。途端に胸が抉られたように苦しくなって「ごめんなさい、こんな息子で」と何度も布団を被って泣いたのだった。  僕は高校を卒業すると同時に、奨学金制度を利用して都内の学校に進学することに決めた。この町には僕の居場所はない。それに加えて皮肉なことに、遊ぶ相手もいない僕は勉強しかやることがなくて成績が良かったのだ。  両親は反対するかと思いきや、どこかホッとした表情で分かったと頷くだけだった。だからこそ「東京の大学に行くんだってね」と、どこから聞いたのか、彼が声をかけてきたときは驚いた。顔を合わせれば何度か声をかけられたことはあったけれど、変わり者の僕と話せば奇異な目で見られてしまうこともあって、僕の方が遠慮していたのだ。

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