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目が覚めると見慣れた白い天井が、日の光によって影を落としていた。ゆっくりと体を起こすと、彼の姿はどこにもない。まるで昨日のことは夢だったかのように、衣服をきちんと身につけていた。
静かな室内には、外を走る車の排気音がやたらと大きく反響している。カーテンの隙間から差し込む日の光が、十一月一日を告げていた。
彼は僕を連れてはいかなかったのだ。そして彼はもうここにはこない。そんな気がする。それでも僕はきっと、来年のハロウィンに彼を待つだろう。
僕はスマホを手に取ると、少し震える手で上京して初めて実家に電話をかけた。
彼が本当に命を絶ったのか。だとしたら今、どこに埋葬されているのか。それを聞きたかった。彼は僕に会いに来てくれたのだから、今度は僕が彼に会いに行かなければならない。
呼び出し音が鳴りやむと、「はい。河西です」と懐かしい母の声が聞こえてくる。
「母さん。僕です。夏樹です」
電話の向こう側で、息を飲む気配がした。
僕は構わず、淡々と用件を述べていく。母の動揺する声も物ともせず、僕はただ、彼のことを問いかけた。自分でも驚くぐらい、はっきりとした口調で言葉を発していく。
もしかすると彼のおかげで、僕は本当の意味で変われたのかもしれない。彼がここに来なかったら、僕は実家に帰るどころか電話さえしなかったと思う。
「どうして知っているの?」とたじろぐ母に「何も知らないから、知りたいだけなんだ」だなって、自分の意志を伝えることは、一生なかったかもしれない。
「彼のお墓参りに行こうと思っているんだ。だから、そっちに近いうちに帰る」
そう言って僕は電話を切った。
冬がすぐそこまで迫ってきているような冷気が、開けたはずのない窓から入り込んでくる。身震いした僕の全身を包むように、温度を奪い去っていくのだった。
end
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