10 / 10

10

 目が覚めると見慣れた白い天井が、日の光によって影を落としていた。ゆっくりと体を起こすと、彼の姿はどこにもない。まるで昨日のことは夢だったかのように、衣服をきちんと身につけていた。  静かな室内には、外を走る車の排気音がやたらと大きく反響している。カーテンの隙間から差し込む日の光が、十一月一日を告げていた。  彼は僕を連れてはいかなかったのだ。そして彼はもうここにはこない。そんな気がする。それでも僕はきっと、来年のハロウィンに彼を待つだろう。  僕はスマホを手に取ると、少し震える手で上京して初めて実家に電話をかけた。  彼が本当に命を絶ったのか。だとしたら今、どこに埋葬されているのか。それを聞きたかった。彼は僕に会いに来てくれたのだから、今度は僕が彼に会いに行かなければならない。  呼び出し音が鳴りやむと、「はい。河西です」と懐かしい母の声が聞こえてくる。 「母さん。僕です。夏樹です」  電話の向こう側で、息を飲む気配がした。  僕は構わず、淡々と用件を述べていく。母の動揺する声も物ともせず、僕はただ、彼のことを問いかけた。自分でも驚くぐらい、はっきりとした口調で言葉を発していく。  もしかすると彼のおかげで、僕は本当の意味で変われたのかもしれない。彼がここに来なかったら、僕は実家に帰るどころか電話さえしなかったと思う。 「どうして知っているの?」とたじろぐ母に「何も知らないから、知りたいだけなんだ」だなって、自分の意志を伝えることは、一生なかったかもしれない。 「彼のお墓参りに行こうと思っているんだ。だから、そっちに近いうちに帰る」  そう言って僕は電話を切った。  冬がすぐそこまで迫ってきているような冷気が、開けたはずのない窓から入り込んでくる。身震いした僕の全身を包むように、温度を奪い去っていくのだった。   end

ともだちにシェアしよう!