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「来年も再来年も……毎年この日に、君の元に来るからね。お盆はどうせ迎えてはくれないんだろう……君は、僕を拒んでいるのだから……」
震える背中が孤独を語っていた。昔の自分と重なって、僕は来ないでほしいとは言えなくなってしまう。それに彼が死んでしまったのは僕のせいでもあった。自分があの時に拒まなければ、彼は死ななかったのかもしれない。罪悪感が胸を覆いつくし、僕の正常な判断を次第に蝕んでいく。
僕は軋む体を起こすと、彼の背にそっと身を寄せた。低い体温が掌と頬から伝って、全身に流れ落ちていく。
「……僕を受け入れてくれるのか?」
僕は小さく頷いた。あの町にいた頃、僕を受け入れてくれたのは変わり者と呼ばれた祖父と、好青年の仮面を被っていても変わらぬ僕への好意を抱いていた彼だけだ。
「でも遅かった……もっと早く、君が僕を受け入れてくれていたら、生きて君のそばにいれたのに……」
彼の体が細かく震え出す。その振動を感じながら僕も静かに涙を零した。祖父に申し訳ない気持ちと、彼に対する同情の心。彼が生きていたとして、僕は彼を受け入れたのか。死んでまで僕に対する愛憎を向けてくれた彼だからこそ、僕は彼を受け入れたのかもしれない。
「……ありがとう」
彼はそう言って体を反転させ、僕と向き直る。冷えた体で抱きすくめられ、僕の体は瞬く間に温度を失っていく。
このまま一緒に連れて行かれるかもしれない。でも恐怖は感じなかった。僕はやっぱり変われなかった。何一つとして、変わってはいなかったのだ。過去の孤独が再び、僕の心と体を氷の膜のように覆いつくし、芯に向かって侵食を始める。
僕は静かに目を閉じて、その時を待った。
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