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「よかったよ……君もあのじいさんと一緒で、信心深かったら僕はここには入れなかったからね」  彼はそう言って小さく笑った。僕は愕然として、力なく顔だけを横に向ける。ベッドに腰かけている彼の背中は、生きている人間となんら変わりなかった。 「君に拒まれて以来、僕は死んだ方がましだと考えていた。そんなとき、親からも無理やり縁談を持ち込まれて、結婚しろってせっつかれたんだ。もう僕の心は限界だった。だから僕は、君を酷く恨んだ。君が僕を受け入れていれば、あんな町なんかから逃げ出して、一緒に都内で暮らしていくことだって、できたかもしれない。でも君はそれを望んではいなかった。だから……僕は自ら命を絶ってここに来た」  彼の告白によって、本当に彼が生きてはいないのだと僕は理解した。それと同時に、かつて祖父から聞いた話を思い出す。  ハロウィンの日は死者が家を訪ねてくる。その中には悪霊や悪い精霊、魔女なども混じっていた。だからケルト人は魔よけの焚き火を灯しては、それを防いでいたのだ。祖父もカボチャをくり抜いた中に蝋燭を立てて、玄関に置いていた。こんなことで本当に悪霊を追い払えるのか疑問だったけれど、祖父は本気でそれを信じていた。 『お前は特に不思議な力を持っている。そのせいで他の人たちに比べて、悪い者たちを引き寄せてしまうかもしれない。だから、こういうことは怠ってはいけないんだよ』  祖父は繰り返し僕に言い聞かせていた。ハロウィンもその一つ。それなのに僕は、それすらも忘れ去ってしまっていた。新しい生活にすっかり染まって、気を抜いていたせいでこんな目にあってしまったのだ。 ーー蔑ろにする者はいつか痛い目を見る  祖父の言葉が今になって、実感を伴って身にしみた。

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