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第2話

この世界に来てもうすぐ1週間が経つ。この世界のことも大体は分かってきたつもりだ。まずここは魔法が主に使われている。モンスターも居るが基本的には人と関わらないのだとか。そして… 「俺の今いる森は、人があまり近づかない森…か」 そう、叶汰のいる森は人があまり近づかない森で有名らしい(意思疎通で様々なモンスターに聞いた)。ここの森はモンスターが多いからとか、襲われるからだとか。 「俺はむしろモンスターと最近ご近所さんだもんな…」 近頃叶汰は話す人(?)がモンスターしか居ず、いつの間にかモンスターの仲良くなってしまい、情報交換等をするようになったのだ。 「まあ別にモンスターも悪いやつばかりじゃない、むしろ」 人より良い奴ばっかりだ。そんな思考に耽っていると、スィムが起きてきた。 (おはよ~カナタ!) 「ん、おはよ」 (今日はどうするの?) 「ああ…まあいつも通りの生活だな」 (今日も?) 「今日も」 とただ淡々といつもの会話を繰り返し、いつも通りに朝食の材料を取りに行く。今日の朝食はそこら辺にいる豚型のモンスターを狩って前の世界で言うところの生姜焼きにしようと思っていた。この世界は(と言うよりこの森はなのだろう)塩等は海ではなく岩、つまり岩石から塩を形成することが多い。俗にいう錬金術もこの世界では可能なので必要最低限の家具以外の今家の中にあるものは全て叶汰が錬成した。血抜きをして朝食を作りながらスィムは数少ない洗濯物を綺麗にする。 「もうすぐ出来るからな。」 (はーい!こっちももうすぐ綺麗になるよ~!) そしてテーブルに食事をならべ 「(いただきます)」 と言い食べる、こんな平凡な生活。たわいのない話をしながら今日は上手くできた生姜焼きの最後の1切れを口に入れた時、家の前に何か巨大な物が落ちてきたような音と揺れ。幸い家の物は倒れなかったが。スィムと叶汰は2人で身を寄せ合いながら家の窓に近づいた。 「…なんだあれ。」 (わかんない…、ドラゴンかな?) 「えっドラゴンって、あの?」 (うん!この森には割とよく現れるよ!人間達はこの森に近づかないから幻のモンスターになってるらしいよ~) 「へえ…」 ドラゴンのちょっとした情報を聞きつつ観察していると。 「…もしかして、怪我してる?」 (そう見たい…かわいそうに…多分人間だ。) 「…やっぱり人間は」 最低なのしか居ないんだな。と呟きながら家から出てドラゴンと会話をしに行く 「えっと…こんにちは。」 『くそっ、穢らわしき人間どもめ。我を見た瞬間に謎の魔法をぶつけおった。』 「あの…」 『む?なんじゃこの人間、この森に何故人間がおる。』 「すみません、俺ここに住んでるんです。」 『ここに住む人間がおるものか…ん?』 「いや実際住んでるんですよ、あれ俺の家です。今はスィムっていうスライムと生活してます。」 『…!?、お主もしやして…。』 「あーやっぱり気づいてなかったんですね。」 『…まじか、人間と話してしまった。』 「えっなんかごめん」 『…お主何故我と話せる』 「ただの魔法、意思疎通」 『…なるほどな』 何か納得したような顔のドラゴン、とりあえず何故ここに落ちてきたのか聞くことにした。 『まあ、先程言った通り人間どもに打たれた魔法の仕業で飛べなくなりギリギリの所で森に逃げ込んだのだ。我は人間が嫌いだ。分かったのならとっとと我の前から消え失せろ』 「いや、でもその傷はせめて治した方が」 『いい、100年位ですぐ治る』 「100年!?」 『ああ、何かおかしいことでも言ったか?』 100年も無駄にするなんて勿体なさすぎる…。その時、ちょうど自分が薬草学を持っていたことに気づく。 「ねえドラゴンさん、人間嫌いなのは分かるんだけど」 『えっ分かっちゃダメなやつだと思うんだが』 「いやそれあんたが言わないでよ。まあとりあえず待ってて、絶対待ってて。スィム、少しだけドラゴンさんとお留守番頼む」 (はーい!ドラゴンさん待ってて~) 『!?、従属魔法だと!?おいそこのスライム!!』 (ふえ?どうしたの?) そんな会話を後ろに、叶汰は回復薬の材料を探しに行った。 一方スライム達は… 『お主らは人間の従属魔法に掛からないのではないのか!』 (うん、かからないよ。) 『じゃあ何故人間なんかといるのだ。』 (あの子は違う。) 『いや、あの匂いは明らかに人間だろう。』 (違うの、そうじゃないの。) 『何が違うと』 スィムは静かに息を吐く、スィムは知っていた。この1週間一緒に過ごして分かったと言ってもいい。カナタは人間が嫌いなのだ、自分と同じ種族なのにも関わらず。そのくせ人肌が恋しくなるということも。だから自分が拠り所になっていることも、落ち着ける場所であれることも。だからスィムはカナタと居るのだ、隣でずっと見守っているのだ。スィムは人間になることも出来る、きっとそうすればカナタも魔法をずっと使わなくて済む。でもスィムはそんなことしない、それこそもう二度とカナタの拠り所がなくなってしまうかもしれないのだから。 (…僕はあの子とずっと一緒にいるさ、僕は魔法であの子の仲間になった、でも違うんだ。) 『だから、何が違うのだと…』 (僕は、僕達は自分から一緒に居たいと思った人にのみ従属魔法を掛けてもらうことが出来る。スライムへの従属魔法は家族になるのと同じ意味でもあるんだよ。人間が知らないだけさ。) 『…あの人間は』 (知らないよ、だって来たばかりなんだもの。でも、家族だと思ってくれてることがわかる。感じれるからいいの。) 『…そうか、まあいくら嫌いな種族だからといって詮索はマナー違反?というものだろう。』 (うん、だろうね) 「おーい!スィムー!あったぞー!」 (おー!凄いカナタ!で何取ってたの?) 「おー分からないのに凄いとか言ってたのか」 (カナタは充分凄いよ、カナタ偉い!) 「…そっか」 『(…なんとなく、このスライムが言っていたことが分かった気がする。そうか、この人間は確かに他とは違うのだな)』 今でもあっちで騒いでいる1人と1匹を見ながら静かにドラゴンが思考に耽っていた。その時、叶汰がぐるっとドラゴンの方を見る。 『なっなんだ急に、驚いたわ』 「すまん、これモンスターにも効く回復薬。」 (あー!それ僕も飲んだことある!) 「あの時は本当に焦ったんだからな。」 (ごめんなさーい) 「まあとりあえず効力はスィムのお墨付きだ、それなら人間が作ったやつでも飲んでくれるだろ?」 『…わざわざ我のために作ったのか。』 「?、それ以外に何がある。俺はあんたが100年も無駄にするなんて勿体ないと思ったから作ったんだ。まあどうしても飲まないのなら諦める。」 この人間は本当に不思議な奴だ、自分に引き込もうとするどころか我を治そうとする。ドラゴンは静かに回復薬を飲んだ。 『…ほう、本当によく効くのだな』 「疑ってたのかよ」 『仮にも人間だからな』 「まあ、それで一応信頼してもらえたか」 『…まあ、お主だけなら信頼してやっても良いぞ』 (わーい!やったね!カナタに友達ができた!!) 「そうだね」 『待て待て!友達なのか!?』 「えっ友だちじゃないのか?」 少ししょんぼりとする叶汰、宥める振りしてドラゴンに凄まじい圧力を掛けているスライム。何だこのカオスな状況は。ドラゴンは必死に弁解した。 『いや、そうではなくてな!?お主なら従属魔法を使わせてやってもいいと言っているのだ!』 「…えっまじか」 (おー!家族が増えた!カナタ寂しくない!) 「俺は既にもう寂しくないぞ」 (嘘!時々寂しそう!) 「…」 少々拗ねるカナタの上に乗りながら跳ねるスライム。カナタはとりあえずドラゴンに了承を再度聞く。 「本当に…いいのか?」 『だからいいと言っているだろう』 「俺人間だぞ」 『まあ、お主なら他の人間に我を売るなんて真似しないだろうからな』 「それはない、絶対ない」 『であろう?ほれ、早うやれ』 「じゃあ…遠慮なく」 ケイム、とカナタが唱えるとドラゴンとカナタが青白い光を纏った糸で繋がれた。 『我は死なんからな、お主がいなくなるその日までは家族とやらになってやろう』 「あっごめん俺も死なないの」 『!?』 (僕もだよ~!) 永遠に家族だー、と言いながら周りを飛び回るスィム。カナタはスィムを見ながら 「そう言えば、ドラゴンさんはなんか名前あるの?」 『ん?名前…か』 「?、どうした?」 『いや、自分の名前を忘れてしまったのだ』 「…え」 『いや待て!決して我が忘れやすい訳ではなくてな!今まで呼ばれることがなかったのだ!忘れても仕方なかろう!?』 「なるほど…じゃあしばらく…ライルさんで」 『うむ、なかなか良い名前だな』 (よろしく~ライルさん!) 『…さん付けはよせ』 「…じゃあライルで」 『ああ、よろしく頼む』 こうしてわずか1週間にして新たな仲間が、家族が増え賑やかになっていくのだった。 「そう言えば、ライルはどうするの?」 『何がだ?』 (家入れないね~) 『ああ、一応小さくなれるぞ、人型になることも出来るは出来るが…』チラッ カナタ は 不安 そうだ!▼ 『ただ普通に小さくなるだけで良いだろう?』 カナタは全力で首を縦に降る、するとライルはカナタより少し大きい位のサイズになった(元はカナタの5倍位だった)。 『これならお主らの家にも入れるだろう?』 「そうだね」 (じゃあさ!また家事の役割分担しなきゃだね!) 「ああ、仕事が少し少なくなるな」 『家事とはなんだ?』 「…まあ、やってみれば分かるよ」 …ちょっと不安を残したのんびり異世界生活が再開する。

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