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1. その後の話 1

『俺ともう一度、付き合って下さい』 お互いの勘違いや本当の気持ちを伝えられなくて一度は別れた俺たち。 でも陣の後押しや弥生主任のおかげでヨリを戻して早1ヶ月、あれからなんと俺は暁斗さんと同棲を始めることになった。   暁斗さんはヨリを戻す前に住んでいたマンションを解約していて、弥生主任の部屋にしばらく居候していた。 『あの部屋は俺を思い出すから』っていう理由で解約してしまう暁斗さんは、本当に本当に俺のことを想ってくれていたんだろう。 そしてその後、初めて付き合った日付の『11月22日』にちなんだ部屋番号のあるマンションを探し、偶然にも弥生主任の住むマンションにその部屋番号を見つけ、俺にはサプライズでその部屋を一括購入してしまったのだ。 家具も家電も前の部屋の物は全部処分して、新しい部屋の物はぜーーんぶ暁斗さんと二人で選んだ新しい物ばかり。  ちなみに処分した理由もマンションを解約した理由と同じで、『響くんと選んだ物がいいから』って買い直した物は暁斗さんが全額出してくれた。 ソファーもベッドも食器も、何もかも一緒に選ぶことは時間もかかるし大変だったけど、何も無かった部屋に二人で選んだ物が増えていくのはまるで新婚夫婦みたいな気持ちになって嬉しい限りだった。   部屋はリビングの他に二部屋あって、一つが暁斗さん、もう一つが俺の部屋ってことにしてある。 ベッドは暁斗さんの部屋に置いて、俺の部屋には同棲にあたり持ってきた俺の荷物が段ボールに入ったまま置いてある。 陣と距離を詰めすぎて苦しくなったことを伝えた俺を思って、暁斗さんはこうして別々の部屋を作ってくれたんだ。 あ、補足だけど、暁斗さんがこの部屋を決めて俺に同棲して欲しいって言ってくれてからすぐに俺もアパートを解約した。 ちょうど更新のタイミングだったし、暁斗さんとの同棲は夢見ていたこと。 それにもう絶対絶対離れたくなかったし、そうなることは無いと確信していたからこそすぐに行動出来た。    もうこんなに好きになる人なんていない。 今まで出会ったどんな人より愛しい人。 暁斗さんは俺の特別な人で、『運命の人』だったんだって思うから。 ーーーだけど、幸せな日々を過ごしていた俺は住所変更も済ませていよいよ暁斗さんと同棲をスタートさせるって今日、忘れていたある壁にぶち当たることとなる。 幸せ過ぎて忘れていた、陣と付き合っていた頃したあの事を、暁斗さんに未だ伝えていない、ということを。 ***** (ど、どうしよう......) それは住所変更を終えた後に入ったカフェで、横に座る女性二人組の会話によって思い出すこととなった。     「私、タクミとヨリ戻したんだぁ!」 「え!?ホント!?よかったぁ~!」  「ありがとう!...でもさぁ、タクミと別れてた時付き合ってた人いたじゃん?それで今悩んでて...」 盗み聞くつもりは無いけれど、勝手に聞こえてきたその言葉に俺の耳は反応する。 ヨリを戻して幸せらしいその女性客が別れていた間に付き合っていた人、その悩み... 俺も同じような状態だったし、なんだか気になってしまい、聞き耳を立てていた俺。 「ああ、ユウキだっけ?あの人もいい人だったよねー。ユウキがどうしたの?まさかストーカー?」 「違う違う!ユウキとはそれっきり。だけど私 、タクミを忘れたくてユウキと付き合ったから色々甘えてさぁ...。それにユウキとも最後までヤッちゃったし、タクミにそのこと中々言えなくて。」 「そういう悩みかぁ。タクミはユウキのこと知ってるの?」 「多分。でもユウキと付き合ってたのって2ヶ月くらいだし、ヤッたとかは知らないと思う。」 なるほど。 この女性客は本当に俺と同じ状態だったんだな。 タクミを忘れたくてユウキと付き合って...なんて、俺が陣と付き合ったのと同じ理由じゃないか。親近感が湧くぞ。 でも2ヶ月付き合って最後までヤッちゃうのかぁ。今時の女の子ってみんなこんな感じなのかなぁ? きっとタクミが知ったら揉めるだろうなぁ... ......ん? ちょっと待て。 タクミが知ったらって他人のこと考えてる場合じゃない。 俺はどうだった...??? 俺は陣と付き合って、いやその前に一緒に寝たりキスされたりしたよな? それにあの頃確か、確か俺も陣と...... 「うわぁぁぁぁあ!!!!!!」 他人の悩み事なんか聞いている場合じゃない、と思った頃にはもう遅くて、俺は大声を出してそのことを猛烈に後悔していた。 俺が暁斗さんに伝え忘れていたこと、それは暁斗さんと別れている間に付き合っていた陣と、エッチをしてしまった、ということだった。

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