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ーprologue.ー 始まりは…
「えーと…ハローワークの担当から教えられた住所は…ここ、だよな…?」
そう言いながら、俺は手に持った地図とそこに書かれている住所を頼りに、ふらふらと歩いていた。
周りはいかにも昭和時代の古そうな建物ばかりで、この風景を見る限り、この場所がそこそこでかい政令指定都市の一部だとは思えないほどの寂れた町だった。
「…信じらんねぇ…今時こんな田舎みてぇな町が政令指定都市になってるとか、嘘だろぉ…。あ、あった。ここか」
目的の場所に到着した俺は、これまた昭和時代の老舗のようないかにも古い造りの店舗の扉をゆっくりと引いてみる。
「…すいませーん…。『ヘアサロンSHIBASAKI』ってのは、こちら…でよろしいでしょうか?」
俺がおそるおそる声を掛けて扉を開けると、カラカラ…という鈴の音が重く鳴り響き、これで来客が分かるのか?と思わせるような感覚を覚えた。
ちょうど昼下がりの客足が落ち着いた時間だったからなのか、その店舗の中に人の気配は感じられず、高い位置に設置されたテレビからは、経済ニュースらしい番組がただ空しく流れているだけだった。
「すいませーん…誰か居ますかー…?」
(大丈夫かよこの店…一応店舗なんだろう?来客くらい気づけよ…。)
そんな事をブツブツと呟きながら入っていくと、店舗の奥の方からコトン、という物音が聞こえてきて、パタパタという足音と共に、中から一人の男性が顔を出してきた。
「…はーい。どちら様?」
「…あ、あのー…ハローワークからの紹介で…」
「…あ、はいはい。どうも初めまして。私、このサロンの経営者で、『芝崎』と言います」
そう言って、『芝崎』と名乗った男性はレジの横に置いてあるらしいサロンの名刺を手に取り、俺の手元に渡してきた。
その名刺にはこの店舗の名前である『ヘアサロンSHIBASAKI』という文字と予約専門の電話番号やメールアドレス、そして『芝崎護』という名前が印刷されていた。
「えーと…芝崎…まも…?」
「あ、違います。『護』と書いて『ゆずる』、と読むんですよ。…では改めまして。…私は、このサロンの経営者で『芝崎護(しばさきゆずる)』と申します。以後お見知りおきを」
「あ…はい。よろしくお願いします。俺は『勝又結真(かつまたゆうま)』と言います。先日、ハローワークの方でこちらを紹介されまして、面接日が今日だと聞いたので…」
俺がそう答えると、芝崎は少し驚いたような顔を見せた。
…え、何で?経営者ならそのくらい知ってるだろう?…その顔が意味するものは何なんだ。
ハローワークに人材募集情報出してるんだから、面接くらいするだろ、普通!…本当に大丈夫か、この店…。
そんな不安しか残らなかったこの『芝崎護』という男との出会いが、後に俺の人生そのものを180度以上も覆すことになろうとは、この時の俺は全く思っていなかったのだ――――。
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