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第7話

 柳瀬はメジャーを取ると彼の胸に両手を這わせる。  ピンと張った状態を保ちつつ、長さの値を記憶し、一度トルソーから離れて数値をメモする。  メジャーを首にかけ、仕立て直していく様は、いっそ優美で絵になる瞬間であった。 「丈はちょうどいいですね。あなたの締まった腰に映えるデザインにしたのですが、気に入っていただけましたか?」  柳瀬はトルソーの背後に回り、ジャケットと素肌の間に手を滑らせる。成人男性としては薄い手のひらをしている柳瀬でも、手首までは入らなかった。  柳瀬の計算に狂いはない。今は素肌の上からはおらせているが、シャツやベストを組み合わせると、このくらいの余裕があったほうが好ましい。  柳瀬は目蓋を閉じ、夢想する。  早く一人前のテーラーになって、彼のために上質なスーツを作りたい。  採寸から生地選び。糸や小物、縫い口にまでこだわって、彼のために技術の粋を集めた最高級のスーツをしつらえたい。 「ネクタイは、僕とお揃いにしましょうね」  柳瀬は自らのネクタイをほどき、背後から彼の首にかける。  柳瀬が「あなた」と慕うトルソーには頭部がなかった。

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