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第8話

 柳瀬は幼い頃からマネキンが好きだった。  周りの人間とは違った意味で好きだった。  デパートやショーケースの中に立つマネキンたちは、美しい姿のまま普遍的な時を過ごす。永久の美に対する価値観は、幼少期から持ち合わせていた。  柳瀬の実家は貸衣装屋を営んでいたため、マネキンは身近な存在であったが、この頃はまだ、マネキンをモデルとしか捉えておらず、将来に関しては漠然と服飾関係で働きたいと思うだけであった。  柳瀬のマネキンに対する好きが、周りの言う好きと違う意味だと知ったのは、柳瀬が服飾系の専門学校に進学してしばらく経った頃だった。  実習室には多くのマネキンたちが並び、各学生たちに貸し出された。その中にはトルソーも混じっており、柳瀬が選んだのは筋肉の流線型が美しく、それでいて瀟洒なデザインのトルソーだった。  彼にどのような服を着せるか。  デザイン画の段階で思いつめた柳瀬はある夜、ひとり遅くまで実習室でトルソーに触れ、隆起した胸部に指をかけた瞬間――精を吐き出したのだ。

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