20 / 23
第20話
この匂いは何の花の香りだろうか。
トオルはうろんな目で周囲を探る。
視界に入る無惨に砕け散った黒色の何か。
そうだ薔薇だ。
いや、この花は防腐処理が施されてあって、生花独特の嫌な匂いはしないと、ジェレミーは言っていた。
それなのにどうして。
胎内をうごめく虫が蠕(ぜん)動(どう)運動を繰り返す。
虫が動くたびにトオルの身体は揺れ、息をつく暇もない。
虫が大きく突き動かされる。途端にトオルの中に何かが放出される。
生温かい。
頭上を覆っていた黒い影がトオルの上に覆い被さる。
ナイフによってドレスを切り裂かれた胸元に、シルクのタイが伝う。
「トオル……」
ジェレミーだ。
虫の正体はジェレミーの肉棒で、体内に放出された何かはジェレミーの精液だった。
「綺麗だよ、トオル。我が愛しの花嫁」
絡まる舌。
干からびた下唇を食まれる。
ジェレミーの顔が遠ざかったときに、また花の匂いがした。
それはジェレミーのムスクの匂いだった。
ともだちにシェアしよう!