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第20話

 この匂いは何の花の香りだろうか。  トオルはうろんな目で周囲を探る。  視界に入る無惨に砕け散った黒色の何か。  そうだ薔薇だ。  いや、この花は防腐処理が施されてあって、生花独特の嫌な匂いはしないと、ジェレミーは言っていた。  それなのにどうして。  胎内をうごめく虫が蠕(ぜん)動(どう)運動を繰り返す。  虫が動くたびにトオルの身体は揺れ、息をつく暇もない。  虫が大きく突き動かされる。途端にトオルの中に何かが放出される。  生温かい。  頭上を覆っていた黒い影がトオルの上に覆い被さる。  ナイフによってドレスを切り裂かれた胸元に、シルクのタイが伝う。 「トオル……」  ジェレミーだ。  虫の正体はジェレミーの肉棒で、体内に放出された何かはジェレミーの精液だった。 「綺麗だよ、トオル。我が愛しの花嫁」  絡まる舌。  干からびた下唇を食まれる。  ジェレミーの顔が遠ざかったときに、また花の匂いがした。  それはジェレミーのムスクの匂いだった。

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