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愛も変わらず《後編》

「この人タラシ」  ジロリと自由が葉山を睨む。  こんなことでヤキモチを妬ける自由が葉山には、ただ可愛くて、いじらしくて仕方ない。ウッカリ顔がにやけてしまう。 「かわいいね、本当にお前は」  そう言ってポンと頭に手を置かれ、自由はその手を威嚇する猫のように瞬間で払いのけた。 「バカにしてっ!」 「お前仕事何時から?」 「聞いてんのかっ! コラッ!!」  ギャーギャー喚く自由の気など御構い無しに、葉山はソファの隣に座った自由の体を持ち上げて膝の上に乗せた。後ろから抱きしめて首筋や耳に口付ける。 「送ってやるから、怒んなよ」 「誤魔化しやがって! ちょっとっ、アンタいい歳していつ落ち着くんだよっ、もっ、服をめくるなっ!」 「いい歳してってお前、還暦迎えたジジイじゃないんだぞ、俺は」  流石の葉山もカチンと来たらしくて声のトーンが一気に下がっていた。 「それに、俺が落ち着いたらお前が寂しいだろ?」 「うわぁ~エロジジィっぽい台詞……」 「俺がさっさと落ち着いたりして、お前に浮気されたら困る……」 「するわけねーだろ、見損なうな」 「うん……ごめん」 「家……21時半には出たい。送ってくれる?」 「うん」 「じゃあ……する?」 「──うん」  葉山は久しぶりに触れる自由の肌に酔いしれた。ミュージックビデオの撮影で三日家を空けた自由と久しぶりに顔を合わせ、その肌を最後に感じたのはもうずっと前だったように感じる。  自由の髪は前に会った時より少しだけ短くなって、明るい赤味ががった茶色に染まっていた。太陽に弱い首筋がまだ、少しだけ熱を帯びている。  初めて抱いた時よりも、肩の線がしっかりして来て、その成長を知り、たまに父親みたいな気分になっては後々落ち込む。  それでも自由の大きな潤んだ瞳も、長い睫毛も上向きの唇も、出会った頃から変わらない。葉山が何度も愛した場所だ。  一回り違うということは、順番に行けば一回り先に自分に死が訪れる。  考えなかったことはないけれど、それよりも目先の幸せを手放すことは出来なかった。自由はその話をすると怒るけれど、きちんと考えなければ行けない現実なのだ。 「自由……」 「ん……なに?」 「呼んだらお前の返事が聞けるの、久しぶり」 「一人で俺のこと呼んでたの? 寂しがり過ぎでしょ、電話すればすぐ済むのにさ」  自分は葉山の仕事に一歩も立ち入らないのに、葉山には入って来いなどと、自由の考えは横暴だ。そんな不甲斐ない男にこれ以上しないでくれと、葉山は心の中で嘆いた。 「誠一郎は、俺と違ってすっごく寂しがりやだから、良いんだよ。俺に甘えてさ、俺はそうされるの嬉しいよ」 「また、男前な自由が出たよ」 「嫌そうに言うなよ、俺だって男なんだから」 「そうだな、男の子だな」  口を尖らせた自由にキスを落として、葉山は意地悪く自由の起き上がった場所を強く手で包む。弱々しい声が自由の唇から溢れて、葉山は体をずらしてそれを口に含んだ。 「ダメだって! 仕事になんなくなるからっ、いっぱいしたらダメだってっ」  細い腰をうねらせて葉山の強い愛撫から自由は逃れようとするが、上手くいくはずもなく、葉山の慣れた動きにあっという間に引き込まれ、泣いてるように何度も声を漏らした。 「出るっ……ダメっ……、あっ、イク……ああっ……」  ビクビクと自由の腰が痙攣し、堪らなくなって顔を真っ赤に染めた自由が悩ましげに首を振る。 ──あと少し、のところで根元を握られ自由は思わず大きな声が出た。驚いて目を見開くとすぐそばに悪い顔をした葉山がいて、自由が「ダメ」と発すると同時に自分の熱を自由の中に深く沈めた。 「ああっ!」  自由は思わず腰を反らせ、いきなり襲って来た刺激に耐える。 「誠一っ……離して……っ、ダメだってば……っ」  根元を離そうとしない手を自由は必死に引き剥がそうとするが、葉山の強い抽送に上手く力が入らない。 「あっ、ダメっ……あっ、ソコッ……ソコだめ、だめっ……」  自由の体で知らない場所は葉山にはもうない。葉山が教えた、葉山しか知らない自由の性感帯たちを葉山は一番深く押しては自由を狂わせた。  長い舌で自由の口の中を味わって、自由の思考も全て溶かしていく。自由の屹立した場所はもうぐちゃぐちゃに濡れていて、自分の意思でどうすることも出来ずに震えては雫を溢れさせた。  ファンの前では、自由はファンだけのものになる。  葉山のことなど思い出しもしないだろう──。  だけど今だけは、自由は葉山自由に戻って、葉山誠一郎だけのものになる。狭い場所を全て葉山には開いて、明け渡し、髪の毛の一本までも葉山に捧げる。 「誠一郎……誠一郎……」  いつも歌を奏でる唇は、愛しい男の名前だけを呼ぶ。 「自由……」  生まれてからずっとあるその名前も、葉山が呼ぶと特別で強いものに変わる。自由は呼ばれると幸せそうに目を開けて、葉山をじっと見つめる。  両手を絡めとって、全てを自由の中に注ぎ込む。自由は何度も何度も断続的に鳴いては最後を迎えた。 「いあっ!」  ラジオブースの椅子に腰掛けた瞬間、自由はおかしな奇声を発した。要が驚いて怪訝な顔で自由を見た。 「どした? 静電気か?」 「いや……筋肉痛……かな……、はは」  要の何かを察した冷ややかな視線を自由は咳払いして躱し、ヘッドフォンを掴んだ。 「運動も程々にな、お前はうちの大事なボーカル様なんだ。その少し掠れた声を聞いたファンが、お前は体調不良なんじゃないかと胸を痛めるような勘違いをさせる真似だけはやめてくれよ」 「はい、肝に命じます。あとアイツのナニにも──」  自由はギリギリと奥歯を噛みながら、気分爽快で送迎してくれた男の笑顔を思い出して苛立った。  調整室から時間を知らせるスタッフの声にメンバーは仕事モードに表情をシフトした。自由の頭からは、しばらくの間エロジジィも姿を消すだろう。  デジタル時計が訪れる時間を知らせる。自由はキューの合図で息を吸い、明るく突き抜けた声で挨拶した。 「こんばんわー!! widersprechen(ヴィーダーシュプレシェン)、ボーカルの自由です!!」 ♪Fin♪

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