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1 始まりー鳥羽暁ー
暗闇の中、
体を無数の手が這う。
気持ち悪さに身を捩った。
でも体は金縛りにあったように動かない。
俺のもののようで他人のもののような、そんな感覚。
パニックに陥る。
助けを呼ぼうと口を開いたが、喉から漏れるのはヒュ、と搾り出された乾いた音だけだった。
キーンコーンカーンコーン
「っ………!」
チャイムの音で一気に夢から現実へと引き戻される。
バクバクと心臓の音が耳に響いた。
見開いた目は涙でかすみ、何度かまばたきを繰り返す。
徐々に鮮明になる視界に青空をゆっくり流れる白い雲がうつった。
(夢、か………)
ゆっくり起き上がって、スマホで時計を確認する。
午後1時半。
4時間目の化学の授業をサボり、屋上に出てから今まで眠りこけていたらしい。
春風が心地よく、寝不足な俺はあっという間に意識を手放してしまったのだ。
(5時間目、何だったっけ…)
始業のチャイムはもう鳴ってしまったし、今更教室に戻るのも億劫だ。
ため息をつきながら、そのままゴロンと寝そべる。
まだ少し心臓の音がうるさい。
体を撫で回す気色の悪い手の感覚がまだ生々しく残っている。
目を瞑ればフラッシュバックするあのトラウマは、俺から『声』を奪っていった。
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