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冷やして、固めて・・・そして噛んで
「やっぱり、来ると思った」
いつも眠そうな店主は、今日あくびしなかった。いつも青い半纏を着ている彼は、今日赤い半纏を着ていた。
「多いんだよね、そういう子」
何も話していないのに、まるで全部わかっているかのように店主は話す。全速力で走ったせいで息が上がっている俺を、ふと笑う。初めて飴を買った日を思い出した。
「全員に対処するのは大変なんだ。だから、これを渡すようにしてる」
店主がそう言って、真っ赤な飴玉を差し出した。何も書いてない。何の飴玉なんだろう。
俺がおそるおそるその飴玉を受け取ると、店主は満足そうに頷いた。
「その飴は舐めずに噛むんだよ」
そうじゃないと、効果ないからね。店主の言葉を聞いて、すぐに俺はその飴を口に放り込んだ。いつもの桃の飴より少し大きい。だけど、彼を信じてガリガリと砕いた。なんの味だろう、味わう前に砕いてしまった。ほんのり、ラズベリーみたいな、ブルーベリーみたいな味がした。あのケーキを思い出した。それと一緒に、ドア先に立った姉ちゃんの顔を思い出す。生暖かい何かを頬に感じて、触れるとそれが涙であることに気づいた。
「さぁほらほら、帰った帰った」
涙を流す俺に、店主がしっしと手を振る。呆然としながら、店を出ると彼はすぐにシャッターを閉めた。
ちゅんちゅん、と鳥の鳴き声が聞こえた。目を覚ますと、コーヒーの香ばしい匂いが漂ってきた。
「くぁ・・・」と大きなあくびを一つして、起き上がる。腰が痛いし、だるい。隣で寝ていた人はもういない。温もりも消え去っていて、少し前に起きたことがわかる。きっと朝ごはんを作ってくれているのだろう。いたた、と腰をさすりながら立ち上がる。
リビングへ向かうと、トランクス姿の恋人がコーヒーをお揃いのマグカップに注いでいるのが見えた。
「おはよ・・・」
声をかけると、彼がこちらを向いてにこりと笑った。
「おはよう、京太。日曜なのに早いね」
後ろから抱きついて、首筋に小さくキスをする。湊の髪から、自分と同じシャンプーの匂いがした。それだけでとてつもない幸福感に満たされる。
「朝ごはんサンドウィッチでいい?」
「うん、ありがと」
テーブルを見れば、ハムとキャベツ、手作りのピクルスが挟まったサンドウィッチが切り分けられていた。コーヒーもちゃんと二つ注がれていて、俺の分にはミルクと砂糖が入っている。一緒に暮らし始めてもう七年経っていた。
「変な夢よく見るんだけどさぁ」
サンドウィッチを頬張りながら、湊が言う。毎朝夢の話を彼はする。
「京太、お姉ちゃんいなかったよね?」
毎朝彼はそう俺に質問する。俺はいつも同じように答えるのだ。
「うん、いないよ」
『〇〇が消える飴』 end
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