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二話、【昔のトモダチ】
***
今日は日曜日。
久しぶりに、優さんの仕事がない休日だった。
…だから、
「優さん優さん…!ほら、こっち!」
「待って。そんなに急がなくても、店は逃げないよ」
待ちきれなくて手をぱたぱた振って呼べば、可笑しそうに笑みを零す優さんに見惚れつつ、商店街を見て回る。
長身ですらっとしてて更に格好いい優さんは、こうして一緒に歩いてると必ず誰かに声をかけられたり、注目されたりする。
普段はそれが嫌で、ほとんどお家デートしかしてなかった。
(……本当は今日も、いつもみたいに家でゆっくりほんわか過ごしても良かったんだけど、)
…優さんに「どこか行きたい場所ある?流羽と久々にデートしたいな」なんて、最高級の笑顔つきで頭を撫でながら言われてしまっては、もう我慢できなかった。
遊園地っていうのもいいなって思ったけど、待ち時間は列に並ばないといけないし、その時にもし女の人達に話しかけられたら逃げ場がないし、
そんな女の人達と話す優さんも見たくないし、…すごく胸が苦しくなるから、やめた。
高級感が漂う洋服店で、
「これ、優さんに似合いそう…っ!」
「……俺のじゃなくて、流羽の服を選ぶって聞いてたんだけど…」
「そんなのどうでもいい!格好いいのに、いつもシンプルなのばっかじゃん。もったいないよ…!俺、優さんがこれ着てるの見てみたい!」
「まぁ…そこまで言うなら、一着くらいあってもいいか」
「うん!」
とか、
上品な雰囲気のカフェの店内で
「優さん、喫茶店でコーヒー飲んでるの、…似合いすぎてやばい…格好いい…」
「…流羽もメロンソーダ飲んでる姿、めちゃくちゃ可愛いよ」
「っ、」
「子どもみたい」
「ッ、そ、それ褒めてない!」
とか、
すべてのやりとりが楽しくて、どきどきして、嬉しくて、
本当に恋人同士がするデートみたいだった。
陽が暮れて、周りがオレンジ色に染まってきても胸のどきどきは静まることを知らなかった。
(…あ、あの店行ってみたい…っ)
「ねぇ、優さん」
少し向こうにある、なんだかおしゃれなお店。
わくわくしながら、まるで小学生の遠足みたいにはしゃぎながら隣を見上げる。
「次はあっちに行きた――」
…………そこまで言いかけた
その時、
「お前…っ、もしかして流羽…、か…?」
「っ、」
不意に、そんな声と同時に腕を掴まれた。
驚いて振り向く。
…と、見知った顔の男の人がいた。
「…まさ、き…?」
「おう。…久しぶり、だな」
「…うん」
昔を思い出して、どこか気まずい雰囲気でお互いに会話をする。
じっと彼の視線が俺と優さんの繋いだ手に向けられているのを感じて、……興奮して無意識に手を握ってしまっていたことに今更気づいた。
罪悪感と、なんだか知り合いに見られてると思ったら無性に恥ずかしくなって、パッと離してしまう。
「…知り合い?」
「高校の時の、…友達、です」
優さんの声に、俯いたまま、こくこく頷いた。
目を伏せ、感情の揺れを隠すように地面を見てしまう。
…さっきまでのデートの気分が嘘みたいに沈むのを感じた。
「お前、あれからどうしてたんだよ。ずっと連絡もしないで。心配してたんだぞ」
「…あ、ごめん。色々あって…」
その言い方に、責めるような色が含まれていて、…無意識に手を優さんの方に伸ばしかけて、とめる。
どうしたらいいかわからず、更に視線を下に下げてしまった。
「へぇ…仲良かったんだ」
「…っ、あ、あの、でも」
零された優さんの声音に、ハッとして焦る。
別に何の関係でもないんだけど、過去にあったことがそれだけ大きく頭の中に残ってて、ちょっと戸惑ってしまった。
本当に、ただの友達で、とそんな良く分からない言い訳、?というか否定をしようとすると、俺に向いていた正樹の視線が優さんの方に向けられたのがわかった。
「…てか、さっき、手繋いでたよな?」
「っ、」
やっぱり見られてたらしい。
いや、見られても全然俺は良い。むしろ大歓迎だ。
けど、優さんが嫌かもしれない、と不安になって、露骨に変な反応をしてしまった。
「……もしかして恋人、か?」
「…っ、ぁ、こ、この人は…えっと」
…恋人って言ってもいいのかな。
嫌じゃないかな。
優さんが良いっていってくれたら、喜んで恋人って言うんだけど、
ああ、朝出る前に確認しておけば良かった。
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