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田舎くんと都会くん
RRRRRR...
うるさい......
冬休みに入ってからいつもより30分遅い時間に叩くようになった目覚し時計めがけて気だるく手のひらを下ろした。
しかし音は止まらない。
二度三度と続けてスイッチを叩くもののカチカチとプラスチックがバネの上で跳ねるだけで
耳障りな機械音が止まることはなく甲高い音が部屋の中でうっすら反響している。
「んぅ...」
断続的な音に反応して脳が意識を覚醒させたのか機械音の正体が時計ではないことに気づいた。
先ほどまで叩いていた時計は午前6時を蛍光色で浮かび上がらせている。
「誰だよこんな時間に...」
タイマー設定の暖房はまだ起動していない。
布団から腕だけだしてもやかましくなり続けるソレには手が届かない。
温かい塒の中で小さく舌が鳴った。
どこでもかしこでもたとえ上司の前だろうとこの癖は治らない。
おかげさまで嫌なことを思い出して機嫌は最低だ。
それにしてもしつこいやつだ。留守電に切り替わるのを待ってるのか。
『あ..おはよう。しゅーちゃん。寝よった?起こしちょったらごめんよー?あんねー?起きたらでえいけんよ、しゅーちゃんのベッドから窓の外見てくれん?』
どこか荒い息の入る留守電は馴染み深い方言の混じった男の声だった。
無意識にカーテンに手が伸びた。
まだ薄暗い冬の朝の空が綺麗だ。
窓の外は昨日降った雪で真っ白になっている。
そこに人の身長ほどの大きさの雪だるまが立っている。
「なんで...」
その雪だるまの隣には電話の向こうから聞こえた地元にいるはずの声の主が立っていた。
「しゅーちゃーんっ。おはよー!」
何でと思うと同時に体が動いた。
マフラーとダウンジャケットを二枚ずつひったくり雑に着る、巻く。
あいつは小さい頃から温度というものを感じ取りにくい体質だ。
だからすぐ風邪を引くし火傷もする、日焼け止めを塗れと何度注意したことか。
階下、というか外にいる俺の幼馴染は
生まれつき全体の色素が薄い。
髪も茶色というよりクリーム色に近いし目も紅茶みたいな色。
唇だって薄いピンクで可愛らしい顔立ち。
その代償に、触覚が少し鈍い。特に温度に関しては
中で湯が沸いているやかんを素手でもって、
「ぬくーい」
とか言ってるような奴だ。その後は想像通り、手の皮がむけるほどの大やけどで、近所そろって大騒ぎだ。当の本人は痛みも感じづらく、ケロッとしているものだから何とも言えない。
「なんでここにいるんだよっ!?」
雪だるまの下にいるこのバカにマフラーを巻いてダウンジャケットを着せると、きょとんとした顔をされた。
俺が手を握って温め始めたからだ。手はもう雪とおんなじくらい冷たくなって赤くなっている。
「追いかけてきちゃった♡ってやつ?」
頭が痛い。ほんとに成人男性なのかこいつは。何で、なんで
高校時代にこっぴどく振られた元恋人を追いかけて地元を離れるなんてことをしたんだ。
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