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301号室 ミイラ男と狼男

冷たい秋の風が吹き、オレンジ色の夕日が沈んでいく。 俺はスーパーのバイトを終わらせ、自分のマンションへ帰っていた。 冷たい風が俺の三角の耳と尻尾を刺激する。 俺は尻尾を少しだけ震わせた。 『メゾン・ド・パンプキン』と書かれた五階建てのマンションの前に来ると、301号室の明かりがついていた。 同居人はもう帰っているらしい。 俺は軽く3段飛ばしくらいのスピードで階段を上っていく。 お腹がすいた。 いつも同居人がご飯を作ってくれる。 腹に入れば同じだと思っていた俺も、少しだけあいつの手料理が楽しみ。 途中、住人の透明人間やゾンビ、吸血鬼などとすれ違う。 すれ違うたび、本当に化け物の街にやってきたのだなと俺は実感する。 301号室の扉を開けると、ぷーんとスパイスの香りがする。 「あれ?おかえり。もう帰ってきたんだ」 「ただいま。今日は早く上がれて……」 「そっか。今日はカレーだよ」 「うん」 ランはそっけない返事をしながらも、しっぽを揺らしながら、部屋に入った。 スパイスの効いたカレーの香りがして、空腹を刺激する。 台所には包帯を身体中に巻いた男が鍋をかき混ぜていた。 仕事終わりにすぐ料理を始めたらしく、ワイシャツの上にエプロンをしている。 「……いつものカレーと違う」 なんだかドロドロしてる。 「同僚のインド人のゾンビがお土産でスパイスを買ってきてくれたんだ。作り方も教えてくれた」 ぴらりと見せられたメニューには、訳の分からない文字がびっしりと書かれていた。 「……読めるの?」 「いや、読めない」 「読めねーのかよ!」 俺のツッコミをよそにミイラ男のカムラはカレーの鍋をお玉でぐるぐるかき混ぜる。 「でも、何となく分かるよ」 「それ……大丈夫?」 「味見もしたから大丈夫。今までまずい料理作ったことないでしょ?」 包帯の奥で真っ黒な瞳が優しく笑っている。 いつだってカムラは優しい。 俺を拾ってくれた、あの時から。 俺はソファに座りながら、キッチンの様子を伺う。 俺は、もともと狼なので何でもそのまま食べられるから「調理」というものをしない。 できるとしたら、切る、焼くということしかできない。 「カレー、待ち遠しい?」 「え!?べ、別に……」 じっと見ているのがバレたのかと思って、体をびくりと震わす。 「だって、尻尾がすごく揺れてるよ?」 「え!?」と俺は思わず自分の尻尾を見ると、ブンブンと尻尾が激しく揺れていた。 「違う!これはその……」 カムラはクスクス笑いながら、盛り付ける。ナンも添えて。 「ランは可愛いね」 カムラは何もかもお見通しのように笑った。

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