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第10話

 現彼女は代議士一族の令嬢で、元彼の父親も婚約の運びでそれは大喜び。なにせ息子の嫁が由緒正しい血筋となれば、自会社にとっても大いなるメリットとなる。  逆に言えば少しのスキャンダルもご法度、元彼一族にとって砂上の楼閣であることに気づかなかった。それが母親にとっての切り札、弁護士を立て一気に攻撃を加えた。  その結果、元彼の婚約は破断となる。  雇った弁護士は元夫のときにも世話になっており、別れる経緯など熟知していて周防にも同情的だった。そんなことから弁護士はいい仕事をしてくれ、証拠の数々と引き換えに慰謝料という名目で八桁台もの口止め料を取った。  それらのことをスマホ受話口越しから母親に説明され、ひと言も返すことができずただ呆然と周防は聞き役に徹していた。  その金は息子の名義として用意した通帳に振り込まれ、印鑑とともに周防のアパートのドア新聞受けに預けておいたと母親は話す。  そして最後に謝罪されると、「馬鹿な母親でごめんなさい。どうか幸せになって」との言葉を残して通話は終了した。  一度として周防のまえに現れなかった母親はそれがきっと答えなのだろうと、周防もまた母親の許にはあえてすがたを現すことなく親子の縁は完全に切れた。  母親が奮闘して手に入れてくれた金には一度も手をつけず、周防は地道に働き生活する。そして着々と地位を築きチーフに任命された。  大手チェーン店ではないが都心に三店舗を展開する中堅クラスの店で、それら三店舗の総括チーフとして毎日をめまぐるしく働いている。

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