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第9話
いくら我を忘れていたとはいえ、未成年の息子を放りだしてしまった自分の罪に気づき、陰ながら母親は周防を見守っていたそうだ。
無一文で家を出た息子は路頭に迷うことなく職まで手に入れ、恋人と暮らていたことに当初は安堵していたそうだ。
けれど三者面談のときに会った彼氏の父親に思うところがあり、母親は興信所を頼りに埃がないかを調べてもらう。もちろん周防の幸せのためだ。
夫とはすでに離婚しており、そのときに両者から受け取った慰謝料で自由に使える資金もあって、約半年にわたり父親と彼氏の素行などを調査してもらった。
興信所の調査員は期待以上の成果を上げてくれた。驚くべきことにICレコーダーでの会話や鮮明な音声つき映像など、どうやって入手したのか聞くのが怖いほどの証拠がそろう。
集まった証拠を母親が受け取ったときと同じくして、周防は彼氏のマンションを出た。すると今度は何を思ったか、母親は探偵に周防の元彼を調査依頼した。
父親と結託して周防を陥れた証拠は挙がった。けれど世間は男同士の関係に冷たく、また法律に関しても同棲とは認められない。
ただルームシェアを解消しただけと言われれば終い、なんの痛手もなく逃げられてしまう。だがたとえ相手が男でも女でも傷つくのは同じ、息子に味わわされた痛みを相手にも与えなくては気が済まない。
自分よがりとは重々わかってはいるが、それでも母親はせめてもの罪滅ぼしとして周防の仇を取ると誓ったのだ。そして探偵が掴んだ証拠を手にし、元彼と父親に復讐を開始した。
興信所の調べはすでに実現した経緯であり割愛するが、物的証拠として大いに役立つ物だ。探偵が掴んだのは元彼と現彼女の婚約、それから元彼の他彼女ふたり。
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