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第22話

 3  旅行から戻って一週間。  毎日のように西園寺から今日は逢えるかとの連絡が届くが、苦し紛れの理由をつけ断わりつづけている。そうすると今度はどんな顔をして逢えばいいのか分からず、ずるずると時間だけが過ぎてしまったのだ。  露天風呂で西園寺と知らない女性との逢瀬を目撃したあと、部屋に戻り布団にもぐり込むと固く目を閉じた。けれど直ぐにはっと気がつくと、急ぎ浴衣を脱ぎ投げ捨てる。  最後に西園寺が周防を見たとき裸体だった、それが浴衣を着ていては起きたことがばれてしまう。この場合ばれたほうが得策だが、どうしても問う勇気がなかったのだ。  もしもあの女性は誰かと訊いて、最も恐れる言葉が返ってきたら──嫌だ聞きたくない、周防はすべてから目を逸らして逃げてしまった。  すでに一度、いや幾度となく残酷な局面を迎えてきたのだ。  初めて声をかけられ愛というものを教えてくれた男。何度裏切られても嫌いになれなかった男、絶望の淵から易々と連れ戻し愛と苦しみを与え、また平然と裏切る悪魔のような元彼。  未だ元彼に告げられた別れの言葉が胸に刺さり、じくじくと痛む心臓は血を流したままだ。けれど西園寺に出逢えたおかげで、少しずつ傷は癒え着実に快復へと向かっている。  だけどもまた同じように「別れよう」と言われたならば、もう二度と周防の心は修復不可能なまでに壊れてしまうだろう。なによりも西園寺から別れの言葉など聞きたくはない。  けれどあのときの光景が脳裡に焼きつき、寝ても覚めても消えてはくれない。湯けむりからのぞくふたりの表情が、ことある毎に思いだされ吐き気を催す。  訊くのは怖い、けれど訊かなければ前に進めない。このままでは神経がおかしくなってしまうかもしれないが、どうしても問う勇気が持てず逃げてしまう。  当然ながら今の精神でまともな日常など送れるはずもなく、職場ではスタッフに心配される始末。それもそのはず、旅行まえは弾けるような笑顔だったのが今は見る影もない。

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