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第27話

「俺……別れたくない……あいつが好きなんです」 「ん、わかった。思うようにしたらいい」  スタッフルームに周防の静かな歔欷(きょき)が響く。  誰にも吐きだせず溜め込んでいた苦しみをようやく打ち明けることができると、少しだけ心のつかえが取れたのか周防の表情に覇気が戻った。  涙を止めることのできなくなった周防は、店長のお達しでその日は半休を取り自宅に戻った。早退扱いでないのは皆勤と給料が減らないため、店長の計らいと優しさにまた泣けてくる。  裏口から出るまえ、店長に「晩飯につき合え。八時にいつものところな」と有無を言わさず予定を取られ、「それまでに情けねえ顔もとに戻しとけよ」と揶揄れてしまう。  いつものところとは、店長御用達の創作居酒屋だ。店内は小洒落た雰囲気で、落ち着いた大人の隠れ家といった居酒屋だ。  高校を卒業してすぐに実家を出た周防は、元彼に金のうえでおんぶされることを嫌い生活費は折半していた。もっともマンションは父親が購入したもので家賃は必要なかったが、奨学金制度を利用したとはいえ大学にかかる費用は高額で、食費や光熱費だけで月の給料が飛ぶ。  切り詰めた生活をしていた周防を見かねた店長が、親心だ遠慮は要らないと月の半分くらい馳走してくれたのが今日誘いのかかった居酒屋なのだ。  長年つき合ってきた彼女と結婚してからは、自宅に招き夕飯を振る舞ってもらっていた。そんな関係は周防が大学を卒業するまでつづき、今では周防にとって店長と妻は家族も同然だ。  今般では同じ年代の社会人より多い給料を稼ぐようにまでなったが、それでも店長にとって周防は心配の絶えない子や弟のようだ。  性に対してオープンな周防のこと、当然ながらゲイであることは店長と妻も知り得る事実。けれどふたりはよき理解者でもあり、それは周防にとって心の拠り所でもあった。  店長にお呼びがかかれば断る理由などない。自宅に戻りシャワーを浴びると、目と頭を冷やして時間までに気分をクリアにした。

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