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第28話

 待ち合わせの居酒屋までは徒歩でニ十分ほど、少しばかり時間に余裕を持たせ自宅を後にする。いつも自分の(なか)に占めている西園寺が、今日このときばかりは二番手でいてくれる。  このところ彼の浮気現場がリフレインしてばかりで、他に目を向けることを忘れていた。胸のわだかまりで自ら殻にとじ込め視界を狭めていたのだ。周囲は秋服から冬服に変わる頃、今は合服がバーゲンで店は書き入れ時だ。  お洒落は季節先取り、暑さ寒さを耐えてこそがモットーである周防。だがこの時期は寒暖の差が激しく、一年を通し最も着衣に気を遣う時期でもある。  黒のスキニーパンツにロング丈の白いカットソー、赤い麻ニットセーターとポストマンシューズとスマートなスタイルの周防。道ゆく女性がちらりと彼を見て頬を染める。  そんな視線には頓着せず、周防は自身を抱きしめ身震いする。今夜は少しばかり寒いようだ、羽織るものでも持ってきていれば……。  いや、そうではない。服が寒いのではなく、ましてやひとりでいるから肌寒いわけでもない。季節はちっぽけな男ひとりの傷心とは関係なく移り変わっているのだ。

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