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第38話

 そんな周防の様子を見ながら西園寺がくすりと笑う。困ったやつだ、まあそこが可愛いんだけどなと心で惚気ながら、通夜のように暗い表情の恋人に誤解をひとつずつ崩してやる。 「言っておくが妻に逢いたいから帰るわけじゃないぞ。そろそろ替えのスーツも欲しいし、残してきた仕事に必要な資料なども回収したい。それに離婚の話も進め──どうした?」 「いや、ううん、だよな。へへ、悪りぃ……ちょっとトイレ」  みっともない勘違いをしていたことが恥ずかしく、それ以上に見苦しい妬心から解放されたことへの安堵が周防の双眸(そうぼう)を薄く濡らす。  取りに戻るのではなく、彼は回収にいくと表現した。それが何を意味するか、すでに西園寺にとって心安らげる定住の場は妻の待つ家ではなく、周防と過ごすアパートだということ。  嬉しくてくすぐったくて涙がこぼれそうになってしまう。そんな情けない顔を見られたくなくて、西園寺に断わると立ち上がり周防はトイレに逃げ込む。  可愛い態度を取る恋人を見送りながら、西園寺はまた相好を崩すのだった。

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