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第37話
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「明日の予定だが──家に一度戻ろうと思う」
「えっ」
リビングのローテーブルに並べられた料理。西園寺の好きなビーフシチューとサーモンのマリネ、サラダボウルにはパプリカやアボカドなど彩り豊かなチョップドサラダが盛られている。
テーブルを挟み向かい合いあぐらをかき座る男ふたりに華はないが、それでも色鮮やかな男女のそれに見劣りなどしないだけの愛がふたりに色を添えている。
シチューをすくいスプーンを口に運ぼうとする周防の手が止まった。
家に帰るとは、つまり妻が待つ自宅に戻るということ。嫌だ、帰らないでくれ。途端に心のなかをどろりと黒い嫉妬が支配するが、それを口にする勇気も資格もない。
彼はまだ既婚者であり、妻の許へ帰るのは夫として当然のこと。離婚が決まっているにしても、その間に夫婦生活を送ると言われれば愛人である周防に妨げる権利はない。
おくびにも出さないが心のなかは修羅場だ。伏し目がちに「そう。わかった」と小さくうなずきシチューを届ける。適当に咀嚼 をして異物を呑み込む。味などしなかった。
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