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第43話

「なんで……」  周防の瞳に映るのはふたり仲睦まじく買い物を楽しむ夫婦のすがた。他のカップルに溶け込むよう女は男の腕に自分のそれを絡め、なんら違和感もなく周りと同調している。  荷物を取りに戻ると今朝アパートを出た西園寺と妻と思しき女性が、なぜか楽しそうに食器を手に取り笑顔を向け合っていた。 「っ──」  彼らの表情を見た瞬間、周防の胸に強い痛みが走る。まるでナイフで刺されたような痛みに顔をしかめ、その場でうずくまってしまいそうになった。  ずきずきと疼く胸を押さえながら店から距離を取る。けれど周防は逃げなかった。周囲から不審に思われても構わない、観葉植物の茂みに隠れ店の入り口を見張る。  前回のとき周防は学んだ。きっとその場から逃げなければ、愚かにも欺かれつづけなくても済んだのにと。だから今回は逃げない。必ず証拠を掴み追いつめてやる。  露天風呂で本人と確認できたのは西園寺だけだが、けれど彼にまたがり気持ち良さそうに腰を振っていた女の後ろすがたは目に焼きついている。  顔を拝むことは叶わなかったが、間違いない露天風呂で西園寺とやっていたのは今その店にいる女だ。ここまで現実に立たされてしまえば、いくらの愚かな周防も目が覚めた。  西園寺は荷物を回収にいき、離婚話を詰めると言っていたが丸っと嘘だろう。ふたりから感じられる雰囲気からすると、離婚話自体が彼の虚言かもしれない。

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