47 / 180
第47話
乗り場にはタクシーが三台、うち二台が客を乗せ走り去る。
急ぎ後部座席に乗り込むと、運転手に「追って欲しい車が──」と説明をして追跡を開始。初めは面倒事は御免とばかりに渋っていたもの、五分も走れば運転手も乗り気になってきたようだ。
追跡から三十分ほど。西園寺の車は郊外の閑静な住宅地に入っていく。バブル期からあるようなひと昔まえのデザイン住宅が多いが、西園寺の車が止まったのは比較的新しい一軒家だ。
アメリカモダンテイストというのか、ひと目で豪邸とわかる輸入住宅だった。
「ここで止めてください」
門にあげられた表札には西園寺の名が。徐行で通りすぎ確認をすると、二軒どなりを右折したところでタクシーを止めてもらう。
運賃を支払い車から降りると、辺りを確認しながら歩く。あまり挙動不審な行動を取ると即刻通報でもされてしまうだろう、なるべく平素をよそおいくだんの家に近づく。
すげえ家だな。あいつどんだけ金稼いでんだよ──
屋敷の裏手にまわり、黒い鉄槍が並ぶ塀の合い間から状況を確認して呆れてしまう。確か住まいは両親が残したものだと聞いていたが、二年まえに改築をして住みやすくしたという。
どう見ても女が好みそうな外見だ、妻の要望がつまった屋敷なのだろう。いくら夫親の財産であれど、夫有責の離婚で妻が理想の家を手放すとは思えない。
いつか一緒に暮らそうと言ってくれたが、もとより周防を迎えるつもりなどなかったのだろう。手入れの行き届いた庭を眺めながら、益々自分が滑稽に思えてくるのだった。
周防は愛人という立場だ、妻に訴えられたら慰謝料を払わなくてはならない。ひとつの家庭を壊すのだ自分の罪は甘んじて受けるつもりでいる。
けれどそのときは西園寺も道連れにしてやる───
屋敷を一周して門戸のまえに立つ。チェスならば周防はポーンといったところか、ならばさしずめ西園寺と妻はキングとクイーンだ。
ポーンがキングを倒すなど血迷ってはいるが、窮鼠も追いつめられては猫を噛む。いよいよ対決のときだ、ベルを鳴らす手が震える。
「悪いな藤隆。チェック──」
ともだちにシェアしよう!