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第47話

 乗り場にはタクシーが三台、うち二台が客を乗せ走り去る。  急ぎ後部座席に乗り込むと、運転手に「追って欲しい車が──」と説明をして追跡を開始。初めは面倒事は御免とばかりに渋っていたもの、五分も走れば運転手も乗り気になってきたようだ。  追跡から三十分ほど。西園寺の車は郊外の閑静な住宅地に入っていく。バブル期からあるようなひと昔まえのデザイン住宅が多いが、西園寺の車が止まったのは比較的新しい一軒家だ。  アメリカモダンテイストというのか、ひと目で豪邸とわかる輸入住宅だった。 「ここで止めてください」  門にあげられた表札には西園寺の名が。徐行で通りすぎ確認をすると、二軒どなりを右折したところでタクシーを止めてもらう。  運賃を支払い車から降りると、辺りを確認しながら歩く。あまり挙動不審な行動を取ると即刻通報でもされてしまうだろう、なるべく平素をよそおいくだんの家に近づく。  すげえ家だな。あいつどんだけ金稼いでんだよ──  屋敷の裏手にまわり、黒い鉄槍が並ぶ塀の合い間から状況を確認して呆れてしまう。確か住まいは両親が残したものだと聞いていたが、二年まえに改築をして住みやすくしたという。  どう見ても女が好みそうな外見だ、妻の要望がつまった屋敷なのだろう。いくら夫親の財産であれど、夫有責の離婚で妻が理想の家を手放すとは思えない。  いつか一緒に暮らそうと言ってくれたが、もとより周防を迎えるつもりなどなかったのだろう。手入れの行き届いた庭を眺めながら、益々自分が滑稽に思えてくるのだった。  周防は愛人という立場だ、妻に訴えられたら慰謝料を払わなくてはならない。ひとつの家庭を壊すのだ自分の罪は甘んじて受けるつもりでいる。  けれどそのときは西園寺も道連れにしてやる───  屋敷を一周して門戸のまえに立つ。チェスならば周防はポーンといったところか、ならばさしずめ西園寺と妻はキングとクイーンだ。  ポーンがキングを倒すなど血迷ってはいるが、窮鼠も追いつめられては猫を噛む。いよいよ対決のときだ、ベルを鳴らす手が震える。 「悪いな藤隆。チェック──」

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