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第50話

 見ろよ藤隆のあの顔、真っ青じゃねえか。いい気味だぜ。俺がなにを言うかってビビりまくってやがる。さあどうしてやろうか───  一度目の裏切りの事実に目をつむった周防。それでも西園寺が好きだからと再構築を決意し、彼もまた周防と人生を歩みたいと願ったからこそ許したのだ。  なのにふたを開けたらどうだ。すべては嘘にまみれ、今も築いたものを壊されることを怖れ青ざめている。こんな男を愛したのか。見る目も運すらないと嘆きそうだ。  ほんとうに馬鹿なのは西園寺ではなく自分かと、腹の底から笑いが込み上げてくる。どうしようもない男に心を殺され、そしてふたたび息の根を止められそうになっている。  許さない絶対に。  西園寺が最も恐れるのは、妻との関係が壊れることだ。そうでなければ休日に恋人を放置し、彼女を最優先するはずがない。  結局のところ周防の立ち位置は愛人、しかも面倒になれば切り捨てられる性のはけ口だ。けれど使い捨てにも心はある。ごみにはごみの意地があるってことを教えてやるまで。  周防は攻撃対象を定めた。西園寺にとって最も大切なのが妻ならば、彼女の心を壊してしまうのが効果的だと考えた。  だが、ただ恨みをぶつけては面白くない。心を棘で武装し、徐々に彼女の心に侵食する。そして少しずつ甘い毒を注ぎ、死に至らしめてやればいい。そのときは西園寺がすべてを失うときだ。  夫の厚い化けの皮を少しずつ剥がし、本性を見せ絶望させてやろう。彼女に狙いを定め、笑顔のまま周防が口をひらく。 「突然おしかけて来てしまいすみません。もしかして僕、せっかくの休日を邪魔しちゃったかな」

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