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第55話

 最後まで西園寺は周防の名を言わなかったようだ。愛情の名残で守ってくれたのかとも取れるが、けれど彼の真意は違うところにあるだろう。  きっと不義をおこなった相手は女にしたかったのではないか。なんとしても同性愛であることを隠しておきたかったのだ。  自身がバイであることを知られたくないのか、妻に更なるショックを与えたくなかったのかは定かではないが。  けれど妻の怒りは収まらず、夫の愛人から慰謝料を請求したいという。それを周防に手伝って欲しいとメールに寄こしたのだ。  すべてのメールに目を通すと、『相談できる友達はいないのですか。確か藤隆の妹と一緒に暮らしているのでは。まずは妹に話されてはいかがですか』と返しておいた。  一度も逢ったことのない西園寺の妹。彼女がどのような性格かは知らないが、たとえ兄のしでかしたことであれ同じ女性であれば親身に聞いてくれるのではないか。  くだんの不倫相手は周防ではあるが、愛人が女性と疑っていないのであれば傍観させてもらう。せいぜい見えない相手と戦えばいい。  その後ぴたりと止んでいた妻からのメール。しかし夜になりまた届くようになった。内容はこうだ、夫が家を出たと。  責め過ぎたせいで逆に怒りを買ってしまったそうだ。ついては周防の許に伺ってはいないかというものだ。すぐに返す『来てない』と。  西園寺からlineは届いているが確認をしていない。ひょっとするとアパートにやって来るのではと危惧した周防、今日はビジネスホテルにでも避難するかと腰を上げた。  すると割れるほどに音を上げるドア、どうやら西園寺が叩いているらしい。やれやれ遅かったかとため息をつき、仕方なしに招き入れてやった。

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