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第56話
「なんの用──って、うおっ……酔ってんのかよ」
ドアを開くなりなだれ込む西園寺。周防めがけ倒れ込んだかと思えば抱きつき、首許に顔を埋めて熱い息を吐く。
相当酔いが回っているのだろう、よくぞアパートまでたどり着けたと周防は呆れる。避難しようと準備万端だったものの、こんな状態の彼を残していくわけにもいかず断念。
引きずるようにソファまで運んでやると訳を問う。
「それで。どういうつもり、もう来ないで欲しいんだけど」
「……もう俺は終わりだ」
頭を抱えまるで世界の終焉を嘆くかのような声で西園寺がつぶやく。もとはといえば嘘を重ねてきた自身が招いた結果だ、自業自得と諦めひとり破滅すればいい。
屑な男のまえに立ち、冷たく見下ろしながら周防は蔑む。
「いい気味だぜ。二兎を追うものは一兎も得ずって言うだろ、てめえの緩い下半身を呪うんだな。悪いけど俺はもう関係ないから、あとは夫婦でやってくれよ」
「酔いがさめたら帰ってくれ」と冷たく放つ周防に重ねるよう、西園寺は「おまえがぶち壊した」と恨み言をつぶやく。
「はっ? なに言ってんの。ぶち壊したのはてめえだろ。離婚するとか言っといてよ、結局は俺を騙してたんじゃねえか。こっそり旅館にも連れてきてよ、頭おかしいとしか思えねえ。
俺とやったあとで妻を抱くとかさ、どんな神経してんの? つか異常すぎてマジつき合いきれねーから。適当に遊べるセフレが欲しいんなら、誰かよそを当たってくれ」
「俺はもうよりなんか戻さねえぞ」と別れを告げた。ジーンズのポケットからスマホを取り出し、水緒と書かれた番号を表示させると”夫を回収してくれ”と連絡を入れようとする。
だがすんででスマホを取り上げられた周防は、逆上した西園寺に掴みかかられそのまま横転。床に腰を打ち痛みに顔をしかめていると、羽交い絞めにされて身動きが取れなくなってしまう。
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