58 / 180

第58話

「うっ、あっ……やめ……痛──っ」  準備もそこそこに無理な挿入が周防を苦しめる。  ローションや避妊具など優しさや労わりなど与えられず、唾液のみの滑りで西園寺を受け入れざるを得ない孔は悲鳴をあげ血を流すのだった。  事を終えるといつものように周防を腕に抱き西園寺は悦に入る。  身体の痛みだけではない、拒絶した相手より凌辱され心をも痛めつけられ、呼吸すら手放したいほどに周防は憔悴する。  心を伴わない行為は犯罪だ。たとえ男であろうと同じこと、犯された事実は女が受ける傷と変わらない。悔しさと憎しみで涙が溢れ、悲運な自身の穢れた魂をも呪いそうだ。  性欲を充たした西園寺はアルコールの力も借り程なくして眠りにつく。彼の腕から逃れた周防は這う這うの体で風呂場に向かい、シャツも脱がずシャワーを浴びる。  足をつたうひと筋の紅いしずく。それがどろりと白濁まじりとなり流れていく。  冷たいシャワーが体温を奪ってゆく。けれど心臓を焦がす業火は熱を増し、周防が持つ人としての心を灰も残さず燃やしてしまった。  痛みと血潮と精液。排水口に消えていく憎悪を色のない眼に留めながら、周防は残りの人生をかけ西園寺を血祭りにあげてやると誓った。  風呂から上がりリビングに戻った周防の目に映るもの。のうのうと大の字になり眠る西園寺だ。上質なスーツは着崩れ、トラウザーズの前立てからは局部が垂れている。  眼前に広がる下卑た光景を忌々しく見下ろしながら、スマートフォンのカメラ機能で収めていく。つぎに水緒のアドレスをひらき、メールに画像を添付して送信した。  もう後戻りはできない。  周防は辺獄(へんごく)に堕ちると決めた。ならば夫婦まとめて道連れにしてやる───

ともだちにシェアしよう!