「水緒さん、僕を見て」 「やっ、触らないで」 「僕は敵じゃない、僕もあなたも藤隆に騙されてたんですよ。いいですか、どうして今あいつがいないと思います？　酒に溺れセックスに疲れて僕の部屋で寝ているからです。 善き夫としての仮面を被りながら、陰では男の身体に快楽を求めてたんです。妻である水緒さんを欺きつづけ、真実が露呈しても尚また僕の許に訪れた。 できることなら僕は藤隆の口から水緒さんに話して欲しかった。僕がここ(・・)へ伺ったのは、あいつの背中を押してやるためでした。だけどやつは懲りずに僕を──」 「抱きにきた」──正しくは襲われたのだが、あえて妻の妬心を刺激する言葉を選び口にする。すると狙いどおり彼女はまた泣き叫び、もはや周防を拒む余力すら尽きてしまう。 　ここでもうひと押し欲しい。彼女の肩を引きよせ優しく胸に包み込んでやると、耳もとで「僕は藤隆から解放されたい。水緒さんもそうするべきだ」とささやく。 　まだ西園寺に対する愛情が残っているのだろう、妻として夫を突き放せないジレンマに胸を焼かれ苦しんでいる。もっとも愛情のゲージは着々と減少の一途をたどっているようだが。 　周防の狙いは夫婦の離婚だ。それが確実のものとなってこそ、西園寺に向け復讐が開始されるのだ。そのためには彼女の心を手に入れ、肉体関係をも結ばなければ。 　女相手に勃起するかは不明だが、どうあってもクリアしなければならない。周防がすべき復讐は、西園寺から妻を奪略することだった。 　傷心につけ込み依存させ、周防を求め股をひらく女に仕立て上げる。そしてすべてが終わった暁には、大切な妻を手酷く捨ててやるのだ。