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第61話
「僕は藤隆にとって性の捌け口でしかなかった。恋人どころか愛人ですらない、邪魔になれば切り捨てられるセフレです。ですが僕はあなたに罪を償わなければならない。
いくら藤隆に騙されていたとはいえ、水緒さんの心に傷を負わせた責任は取るつもりです。慰謝料を払う覚悟も、社会的な制裁が必要であれば甘んじて受けます。
だけど水緒さんの気持ちはそれで浮かばれますか。心から愛していた男に裏切られ、これから先あいつと生きていけるの? 目をつむり再構築できますか」
同じ空間で生活をともにし、空気を共有して死ぬまで顔を合わせる。ときには身体を求められ、吐き気を我慢して差しだすのか。そんな苦行を永遠つづけられるかと彼女の脳に注ぎこむ。
まるで洗脳のようにマイナススパイラルに陥らせ、自由を奪い意思を放棄させるよう毒を仕込む。芸術的な蜘蛛の巣に似せた円網の罠を慎重に這わせ、獲物を絡め取り弱っていくのを待つ。
「……なにが言いたいの」
「あなたは離婚を考えているのでしょう、僕も藤隆とは縁を切るつもりです。僕が言えた義理ではないですが、もしも離婚の際あなたに有利な情報が欲しければ僕が力になります。
夫の有責だとしても離婚すれば結局のところ妻が不利だ、負担を追いながら暮らしていかないといけない。だからこそつぎのステップを踏むまでの基盤として、いくら金があっても邪魔にはなりません。
あいつから思う存分慰謝料をふんだくるんですよ。もちろん水緒さんを苦しめる要因である以上、僕もできるかぎりお支払いはします。それ以降も水緒さんが安定した暮らしに戻るまで、罪滅ぼしとして僕があなたを支えます」
「奴隷でもATMでもいい。どんな扱いをされても水緒さんのそばにいます」と懺悔した。
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