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第80話

 何事もなかったように水緒の許に帰った周防は、いつもどうりの生活をつづけながら少しずつ身の回りの整理を始めた。  服や靴など私物を最低限に減らしておき、貯金通帳から全額を引き出すと屋敷の金庫に収めておく。それから休み毎に水緒が行きたい場所へ連れていってやり、思い出をつくる。  日用品など重いストックを買いため、できるかぎりの家事も率先した。  そして職場を退職する旨を店長に伝えると、今まで迷惑をかけたこと嬉しかったことの礼と詫びをして整理を終えた。  許しを得た母親と、水緒と弁護士に宛て手紙を認め、日時指定をして投函。  西園寺の愚痴用スマートフォンから、「逢えないか」とメールを送信。すぐに「迎えにいく」との返信があった。 「──水緒」 「うん?」 「俺を許してくれてありがとう。愛してるよ。……幸せになれ」 「なによ突然、もう私は幸せだよ。けど嬉しい、初めて言ってくれた。愛してるって──んっ……」  周防が口にした言葉は本心だった。最後に愛したのが水緒でよかった、自分の想いに気づけて幸せだと心に秘め、周防は水緒に安らかな口づけを交わすのだった。

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